率直に言ってしまえば、Pyrrhic victory(ピュロスの勝利)は勝ちに値しない勝利の事です。独ソ戦になぞらえれば、第三次ハリコフ攻防戦でのドイツ軍による東部戦線における最後の勝利に当たります。Pyrrhic victory、この単語を初めて知ったのは、NBCの人気法廷ドラマLaw & Order (ロー&オーダー),シーズン14, エピソード6,Identity(誇り高き人生)を見ていた時に、主人公の地方検事補長Jack McCoyが”competency hearing 1で容疑者の老人に対して、”Do you know what a Pyrrhic victory is, Mr Jackson? “「ピュロスの勝利が何か知っていますか?ジャクソンさん」と言った時だった。
その時、その老人は” I’m not really sure.”「さぁ、よくは知りませんな。」と答え、それに対してMcCoyが”That’s when you win but you really lose. Like this hearing: if I win, I get to say that you’re competent, in which case, I get to go into another courtroom and try to prove that you did something I know you did, but at the same time I can’t prove.”「それはあなたが勝っても実質負けという事です。この審問のように。仮に私が勝てば、あなたが法的能力を有すると私は言えるようになり、その場合、私は別の法廷へ行く機会を得、私があなたがやったと分かっている事をあなたがやったと立証を試みますが、その一方で私には立証は不可能です。」 老人は”So why don’t we just call it a day? ” 「ならつべこべ言わずに今日は終わりにしましょうや。」Law & Order (1990–2010):”Identity” と返すわけですが、このやり取りは非常に見応えがあり、今でも鮮明に記憶に残っています。
プライドを賭けた勝利への執念
ジャック・マッコイが審理中に容疑者の老人に対して、”Pyrrhic victory(ピュロスの勝利)”という言葉を使ったのは、自分が負ければ老人は無罪放免、たとえ勝ったとしても、ほぼ確実に、老人は裁判で無罪放免になるだろうという彼の焦燥感を表しています。老人は演技をすれば自分が無罪放免になることは知っていたましたが、彼のプライドがそうさせませんでした。老人は自分のプライドを賭けて法廷で争う決意をしたのですが、最終的に彼のプライドが犯行は計画的だったということを吐露させてしまいます。マッコイは、老人のプライドを傷付けることで、老人に真実を語らせることに成功しますが、最終的には、犯罪を認知症で誤魔化さずに、真実を語った老人の誇り高き姿勢に感服して、減刑せざるを得ない状況に追い込まれてしまいます。つまり、マッコイが言ったように、この法廷闘争は最初から彼にとってのピュロスの勝利だったというわけです。
戦術的勝利、戦略的敗北を意味する
第二次大戦のドイツのように、ソ連に対して戦術的勝利をいくら重ねても、工場、製油所、人口密集地体への戦略爆撃なしに戦争に勝つことは不可能だし、そもそも圧倒的物量を誇る米ソに戦争を仕掛けること自体があまりにも無謀でした。
によると、古代ギリシャのエピロス王ピュロスがアスクルムの戦い (紀元前279年)とヘラクレアの戦い(紀元前280年)でローマ軍に勝利するも、あまりにも損害が大き過ぎて実質負け同然の勝利だったところからきているようです。先にも述べましたが、独ソ戦における第三次ハリコフ攻防戦での勝利が、ドイツ軍にとってはまさにPyrrhic victoryでした。何故なら、戦いに勝ったことで、戦争に負けてしまったからです。