or lack thereof、頻繁にnews article(ニュース記事)等で見かけるフレーズなのですが、どういう感じの使われ方をしているのかを詳しく調べてみることにしました。フォーラムでもアメリカ人は、このイディオムを好んで使っているのをよく見かけますし、テレビのニュース番組なんかでも使われているのをたまに聞く事があるので、どういう意味なのかを知っておいた方がいいイディオムの一つとも言えます。
例えば、PC MagazineのFiat Chrysler Building Autonomous Minivans With Googleの記事中に、
But there remains one major hurdle for autonomous technology: federal regulations—or lack thereof.
という英文があるのですが、これはどういった意味で、どういったニュアンスで使われているのかをこれから掘り下げて行きたいと思います。
or lack thereof の意味
lack = 欠如、thereof = それの、単純に和訳すれば、あるいはそれの欠如と訳せます。or lack thereof ← このスレッドを見てみると、どうやらこのイディオムにはかなり辛辣な皮肉なニュアンスがあるらしい事が分かります。
It fits your life – or the complete lack thereof (an advertisement slogan)
OPはこの車のCMに出てくる英文の意味を知りたいのですが、このスレッドの最後の方に載っているコメントがどう考えても有り得ません。そもそも、車の広告で、”This car sucks” (この車は最低)や視聴者に対して、so does your life (おまえの人生もな)、などというニュアンスを持たせるわけがないと思われるのですが、
This expression is often used in a sarcastic tone.
In the example, “It fits your life or the complete lack thereof”, the author could have said, “It fits your life or the complete absence of it”. The underlying, sarcastic meaning is, “This car sucks, so does your life”.
ところが、このコメントを後押しするコメントが最後に付けられています。
This is the befitting explanation. ‘Lack Thereof’ is a negation of the subject in question, often used sarcastically.
どの説明も、この広告は、視聴者をloser(負け組)扱いにしているニュアンスがあります。
This car fits your life, even if you don’t have a life.
Buy it no matter what! It will get you where you’re going, and if you’ve got nowhere to go, you can still drive around in it, aimlessly.
「この車はあなたの生活にピッタリ、例えあなたがどんなに虚しい悲惨な生活を送っていたとしても」つまり、おまえ(視聴者)の惨めな生活にピッタリな車、という意味にもとれてしまうのです。これと似た回答が寄せられています。
The advertiser is suggesting that you may be lacking an interesting or good life – so buy their product.
「広告主は、お前(視聴者)は単調で何の面白みのないつまらない人生を送っているんだろうな、と示唆しているのです。それならこの商品をさっさと買えと」
もちろん、これはcompleteが付いているので多少大袈裟に意訳しているだけなのですが、この広告の趣旨は、この車を買えば、あなたの人生が楽しくなりますよ〜、と視聴者に車を買って人生を楽しみましょうという事で、ドライブが趣味の人が多い国のCMとしてはありなのかなと。日本では、冷酷企業と国の無策で犠牲になった貧困に喘ぎ苦しむ若者達の車離れ(免許取得離れ)が深刻になっているようですが。
or lack thereof の例文
ニュースに使われているものをピックアップしてみました。
3 reasons Donald Trump could beat Hillary Clinton and win the presidency
That brings us to the second factor working in Trump’s favor: He has proved to be a brilliant manipulator of the terms of engagement. In terms of style and substance (or lack thereof), Trump made the Republican field talk about what he wanted to talk about and discuss the world in a more Trumpian way.
「この事はトランプ氏有利に働く第二の要因をもたらします。彼が天才的な契約条件の改ざん者だということは証明済みです。型と内容(または、型と内容の欠如)に関して、トランプ氏は、よりトランピアン流に自分が話したい事や議論したい事を、他の共和党員達に話題にさせました。」ここでの thereof (of it)は、style and substance の事を言っていて、or lack of style and substance となり、型と内容の欠如といったような意味になります。型と内容(または、型と内容の欠如)に関してと訳せます。トランプ氏の討論スタイルが、型破りであるばかりでなく、substanceless (内容がない)と批判されていたことは記憶に新しいのではないでしょうか。つまり、型も内容も何もない彼の粗野で荒削りな部分がそういった層に受けた事が幸いしたということです。
Kardashian candidateと揶揄されていたトランプ氏の共和党予備選での成功は、自身の無知無教養(nuclear triadさえ知らなかった)を隠すために、彼が常に共和党内における討論や議論のスタイルと内容(あるいは全く内容がないように)を彼のレベルまで引き下げる事に成功したことが要因となっています。
イマイチ良く分からない例文なので、もっと分かり易い例文で。
Can Washington resentment carry Trump to the White House?
Trump will need to up his game from ‘boasting’ to ‘how I’m going to’. That will be the only way he can try to fight a Clinton-lead charge on his experience, or lack thereof.
「トランプ氏は’口先八丁’から、’私ならこうする’への高度な戦略転換が必要です。このことが、氏が、自身の経験の有無に対するクリントン候補の批判に対抗する唯一の方法です。」
thereofはexperienceの事で、lack (absence) of experience = 経験不足という意味になります。or lack thereof は、or lack of experience よりも形式張った古風な言い回しになるだけでなく、嫌味や皮肉な意味合いも含まれています。ヒラリー・クリントン候補の、大統領夫人→上院議員→国務長官という華々しい経歴対して、トランプ氏には政治経験が一切ないという、つまり、政治経験の有無を、ヒラリー陣営が今後攻撃するのは間違いないので、ビジネスマンとしての経験から、私ならこうするということを表明する必要があると、この記事では言っています。