実験物理学の最も大きな謎の一つが、高温超伝導体の仕組みです。それらの名前にもかかわらず、高温超伝導体は、摂氏マイナス135度に満たない低温で機能します。このような物質の原理を解明することが、室温で動作する超伝導デバイスを可能にし、ノートパソコンやスマホなどの電化製品に革命をもたらすかもしれません。
Nature Physics誌の最新刊で、カルテック(カリフォルニア工科大学)の研究者は、この永遠の謎の一片を遂に解き明かしました。彼らは擬ジャップと呼ばれる、こういった物質を冷却して超伝導化する前に起こる物質の転移相が、超伝導状態の時とは明らかに異なる性質を持つ、独特な物質状態を示す事を確認しました。
擬ギャップ状態
New clues emerge in 30-year-old superconductor mystery
When matter transitions from one state, or phase, to another—say, water freezing into ice—there is a change in the ordering pattern of the materials’ particles. Physicists previously had detected hints of some type of ordering of electrons inside the pseudogap state. But exactly how they were ordering—and whether that ordering constituted a new state of matter—was unclear until now.
「物質が一つの状態、または相から別の相に遷移する、例えば、水が氷に凍る時、物質の粒子の秩序パターンに変化が生じます。物理学者は、過去に、擬ギャップ状態内に、ある種の電子の秩序化を検出しています。しかし、それらが秩序化する正確な仕組みや、その秩序化が物質の新しい状態を構成しているのかどうかは今まで謎でした。」
“A peculiar property of all these high-temperature superconductors is that just before they enter the superconducting state, they invariably first enter the pseudogap state, whose origins are equally if not more mysterious than the superconducting state itself,”
「全てのこういった高温超電導体に固有な一つの性質が、それらが、超伝導状態に入る直前に、必ずまず最初に、その発生起源が、少なくとも、超伝導状態と同じように謎である擬ギャップ状態に入るということです。」
高温超伝導体の超伝導状態への登竜門的存在が、擬ギャップ相だという事みたいです。
“We have discovered that in the pseudogap state, electrons form a highly unusual pattern that breaks nearly all of the symmetries of space. This provides a very compelling clue to the actual origin of the pseudogap state and could lead to a new understanding of how high-temperature superconductors work.”
「我々は、擬ギャップ状態において、電子が、ほぼ全ての空間対称性を破る、非常に珍しいパターンを形成することを突き止めました。この事が、擬ジャップ状態の、現実に存在している起源の、非常に説得力の有る手掛かりを提供し、さらに、高温超電導の原理の新たな理解を、我々にもたらす可能性さえあります。」
対称性の破れが高温超伝導においては、非常に重要な意味を持っているようです
超伝導電子のダンス
Materials become superconducting when electrons overcome their natural repulsion and form pairs. This pairing can occur under extremely cold temperatures, allowing the electrons, and the electrical currents they carry, to move unencumbered. In conventional superconductors, electron pairing is caused by natural vibrations in the crystal lattice of the superconducting material, which act like glue to hold the pairs together.
「物質は、電子が自身の本来の性質である反発を乗り越えて対を成す時、超電導になります。この対は極低温下で生じ、電子とそれらが運ぶ電流が邪魔されずに移動することを可能にします。普通の超伝導体で、電子が対になる事は、超伝導体の結晶格子内の、そのペアをくっつける糊のような役割をしている、自然振動によって引き起こされています。」
持って生まれたお互いに反発し合う電子の性質が、何かをきっかけにして、突如手に手を取り合ってくっついて(クーパー対)行動するようになる、これが超電導現象で、電子を常温でペアリングできれば、室温超伝導が可能になるみたいです。硫化水素に有り得ない高圧をかけることで、摂氏-70度で超伝導になるらしいことが伝えられています。固体金属水素が超伝導体とも言われていて、常温常圧下で水素が固体金属状態でい続けられれば、これが夢の室温超電導体だと言われています。それを実証するための研究も着々と進んでいる事が伝えられているので、結果がかなり期待されています。
But in high-temperature superconductors, this form of “glue” is not strong enough to bind the electron pairs. Researchers think that the pseudogap, and how electrons order themselves in this phase, holds clues about what this glue may constitute for high-temperature superconductors. To study electron ordering in the pseudogap, Hsieh and his team have invented a new laser-based method called nonlinear optical rotational anisotropy.
「しかし、高温超電導で、この形態の糊は、電子対を結び付ける十分な接着度がありません。研究者は、擬ギャップや、電子が自身をこの相に秩序化する仕組みが、この糊が、高温超電導体の構成要素の一部かもしれない事に対する、重要な手掛かりを握っていると考えています。擬ギャップにおける電子の秩序化を調査するために、研究チームは、非線形光学回転異方性と呼ばれる、レーザーを基にした新しい方法を考案しました。」
高温超電導体では、結晶格子内の自然振動(フォノン)が糊の枠割を果たすにはあまりにも接着度が弱いみたいですが、この糊が高温超電導体においても、何らかの影響を与えていると考えられているので、電子がどうやって秩序化して擬ジャップ相を作り出しているかが分かれば、自ずとこの糊の役割も分かるということみたいです。
In the method, a laser is pointed at the superconducting material; in this case, crystals of ytttrium barium copper oxide (YBa2Cu3Oy). An analysis of the light reflected back at half the wavelength compared to that going in reveals any symmetry in the arrangement of the electrons in the crystals.
「その方法で、レーザーは、超伝導材に照射され、今回のケースでは、イットリウム・バリウム・酸化銅の結晶。入射光に比べ半波長で跳ね返る光の解析が、結晶中の電子の配置における、あらゆる対称性を明らかにしてくれます。」
対称性の破れが鍵
Different phases of matter have distinct symmetries. For example, when water turns into ice, physicists say the symmetry has been “broken.”
“In water,” Hsieh explains, “the H2O molecules are pretty randomly oriented. If you were swimming in an infinite pool of water, your surroundings look the same no matter where you are.
「物質のさまざまな相が特有の対称性を持っています。例えば、水が氷に変わる時、物理学者は、対称性が破れたと言います。水という液体において、水分子は非常に不規則に配向しています。無限に広がる水のプールで泳いだ場合、例えどこへ泳ごうが、周囲の景色は常に同じように見えるはずです。」
In ice, on the other hand, the H2O molecules form a regular periodic network, so if you imagine yourself submerged in an infinite block of ice, your surroundings appear different depending on whether you are sitting on an H or O atom. Therefore, we say that the translational symmetry of space is broken in going from water to ice.”
「氷という個体においては、その反面、水分子は、規則正しい周期的ネットワークを形成しているので、無限の氷塊の中に潜り込んだ場合、水素か酸素分子のどちらの上に座るかどうかによって、周囲の景色は常に違ったように見えます。」
With the new tool, Hsieh’s team was able to show that the electrons cooled to the pseudogap phase broke a specific set of spatial symmetries called inversion and rotational symmetry. “As soon as the system entered the pseudogap region, either as a function of temperature or the amount of oxygen in the compound, there was a loss of inversion and rotational symmetries, clearly indicating a transition into a new phase of matter,” says Liuyan Zhao, a postdoctoral scholar in the Hsieh lab and lead author of the new study. “It is exciting that we are using a new technology to solve an old problem.”
「この新しいツールを使って、Hsiehチームは、擬ギャップ相へ冷却された電子が、反転対称性と回転対称性と呼ばれる、特定の空間対称性の組み合わせを破壊する事を明らかにしています。”その系が、擬ギャップ領域に入るとすぐに、温度関数、あるいは、その化合物中の酸素量のどちらかが、物質の新しい相への転移をはっきり指し示す、反転対称性と回転対称性の喪失が生じます。”と今回の研究論文の筆頭著者のZhaoは語る。”古い問題を解くために新し技術を使うことはエキサイティングなことです。”」
空間対称性セットである、反転・回転対称性の破れが、擬ギャップ相である事を示し、それは超電導状態への一歩手前のフェーズで、電子が秩序化される過程において、どのようにそれが達成されるのかが、常温超電導への鍵みたいな感じです。
“The discovery of broken inversion and rotational symmetries in the pseudogap drastically narrows down the set of possibilities for how the electrons are self-organizing in this phase,” says Hsieh. “In some ways, this unusual phase may turn out to be the most interesting aspect of these superconducting materials.”
「”擬ギャップにおける反転対称性と回転対称性の破れの発見は、この相における、電子自己組織化方法の可能な組み合わせを大幅に絞り込んでいます。”と、Hsiehは言っています。”いろいろな意味で、この特異な相が、この種の超電導材料の最も興味深い側面だったということが、将来判明するかもしれません。”」
With one piece of the puzzle solved, the researchers are on to the next. They want to know what role this ordering of electrons in the pseudogap plays in inducing high-temperature superconductivity—and how to make it happen at even higher temperatures.
「パズルの一片を解くことにより、研究者は、次へ進んでいます。彼らは、擬ギャップにおけるこの電子の秩序化が、高温超電導を誘発するのに、どんな役割を果たしているのかという事と、もっと高い温度でそれを引き起こす方法を知りたいと思っています。」
常温で空間対称性の破れを引き起こせれば、室温超伝導が可能になるみたいです。水は低圧下だと、沸点が下がるように、気圧を変化させることで相転移を低温で引き起こせるように、ある種の物質に超高圧をかけると臨界温度を著しく高めることが可能です。