多くの人々が、荷電粒子(主に電子)の流れとして、その電荷が通り抜ける物質の原子構造について深く考えることなしに、電気伝導性を思い描いていますが、高温超電導体や磁性に強い反応を示す物質などの、強相関電子材料を研究している科学者は、その絵があまりにも単純化し過ぎていることを知っています。彼らは、原子が、物質の性質を決定する上で、非常に重要な役割を果たしていることを百も承知しています。
強い電子格子相互作用
例えば、電気抵抗は、電子が原子に散乱している事を明示しています。電荷の流れを止めるために電子と原子が協調的に動く、あるいはその全く正反対に、電気抵抗無しで電子を自由に流させるという概念の証拠はあまり存在しません。しかし、現在、米エネルギー省ブルックヘブン国立研究所の物理学者率いるチームが、電子の動きが、原子配列に直接的な影響を与え、大幅に電流の流れを変える格好で、物質の3次元結晶格子にゆがみを引き起こしていることの確かな証拠を提出しています。こういった、一般的にポーラロンとして知られている、強い電子格子相互作用の証拠の発見は、超伝導(エネルギーロスなしで一部の物質が電流を流せる能力)や他の前途有望な性質などの複雑な現象に対する、それらの影響を数値化する必要があることを強く訴えいています。
超高速電子線回折システム
ネイチャー誌のパートナー、npj Quantum Materials誌に掲載された論文中に記載されているように、前記のチームは、新しいレーザー駆動の撮像技術で、繊細な原子スケールの格子ひずみを捉えるための、世界でも過去に類のない、超高速電子線回折システムを開発しています。その手法は、他の動態過程を研究するための、広範囲に及ぶ潜在的な用途を有しています。”その技術は、ボールの軌跡を明らかにするためにストロボ写真撮影術を使うことに似ています。”とZhuは言った。”ボール投射と写真撮影の間に異なる時間遅延を用いることで、動的な動きを捉えることができます。”と彼は言った。
しかし、原子スケールで動態を撮像するためには、もっと高速なフラッシュと動いている原子より小さい物体を固定する方法が必要です。ブルックヘブンチームによって開発されたその機械は、試料物質中の電子にエネルギーキックを与えるのにレーザーパルスを利用しています。最初のレーザーから分離した別のレーザーが、試料を精査するための高エネルギー(2.8MeV)電子を猛烈な勢いで発生させます。それぞれが130フェムト秒持続するこのフラッシュを作り出す電子は、試料に散乱して、原子の位置を明らかにする回折パターンを生み出します。パルスと探針間の時間遅延を変えることで、高エネルギー電子と格子の反応に伴う、原子配列における微妙な変化を捉えます。
”これはX線回折に似ていますが、電子を使うことで、もっと大きな信号が得られ、高エネルギープローブ電子が、原子の正確な動きを測定するための、より良好なアクセスを提供してくれます。”とZhuは語った。加えて、彼の顕微鏡は、超高速X線光源を構築するのにかかる費用の、ほんの一部で構築することが可能な自家製マシンです。
主な発見
磁場の存在で非常に劇的に導電性が変わることで、長年関心を集めている物質、酸化マンガンにおける電子‐格子相互作用を研究するために、科学者達はこの技術を利用しています。彼らは、電子が相互に作用して、原子格子の形状を変える紛れもないサイン、すなわち、高エネルギー電子と周囲の原子が示す2段階緩和を検出するのに成功しました。
通常の1段階緩和においては、エネルギーバーストによって、一つの原子位置から別の場所へ蹴り出さた電子は、すぐに新しい環境に形を合わせます。”でも、強相関物質においては、他の電子との相互作用や格子との相互作用によって、動きが鈍くなります。”とブルックヘブンで、今回の研究に携わっている別の研究員が言っています。”それは、交通渋滞に巻き込まれた車がノロノロと動いているようなものです。”
実際には、負に帯電した電子と、正に帯電した原子核が、互いに形を合わせようと試み合うような感じで、相互に作用し合っています。なので、左右対称の原子空間に入ると、細長い電子雲は、もっと円形を装うようになり、その一方で、同時に、その格子を構築している原子は、細長い電子雲を受け入れようと位置を変えます。2段階目において、この両者の間の、互いに形を合わせようとする割り振りは、1段階緩和で予測されているものへと、徐々に緩和されていきます。”超高速電子線回折で観測可能なこの2段階挙動は、格子振動が、タイムリーに電子と相互作用している証拠です。それらが、ポーラロンが存在していることを如実に証明してくれています。”と、インは言った。
その発見は、格子応答が、どのようにして、マンガナイトが磁場(巨大磁気抵抗として知られている作用)で経験する電気抵抗を大幅に減らすのに役立っているのかについての洞察を与えてくれます。”電子雲形状が、電子の磁気属性に関係しています。”とインは説明しています。”電子の磁気モーメントが、磁場にアラインされると、電子雲形状と原子配列は、より対称的で均質なものになります。push-me, pull-youのゲームをプレイすることなしで、電荷は、もっとスムーズに流れるようになります。”
今回の研究は、超高速メモリや他の高速電子デバイスなどの、前途有望な新技術用途に帰結するかもしれないアプローチで、超高速レーザーが、強相関電子材料における、電子動力学、磁気動力学、格子動力学を即座に変える事が可能なことを示しています。
”我々の今回の新しいやり方は、こういった種類の動的相互作用をもっと詳しく理解するのに使えるだけではなく、さらに、隠れ状態や、その他の新種の材料における新たな挙動を発見するために、他の動的プロセスを研究するのにも役立ちます。”
ポーラロンの存在を物理的に証明することを可能にした、今回の研究に使われているこの超高速電子線回折システムが、常温超伝導解明のための研究にも使えそうなので、さらに室温超電導体発見へ近付いたと言えるのかもしれません。と適当に言っておきます。
参照サイトUltrafast imaging reveals existence of ‘polarons’