脳の可塑性に関与しているシナプスは少ない

カリフォルニア大学サンタバーバラ校神経科学者ケネス・S. コシク氏は、脳の研究を数十年しています。彼の神経生物学研究室は、ニューロンを繋ぐシナプスの進化とアルツハイマー病の遺伝学に焦点を当てています。特に、コシク氏チームは、可塑性の根底にある分子機序とシナプスのタンパク質翻訳が学習に影響する仕組みに関心があります。

Neuron誌に掲載された新しい研究論文の中で、コシク氏は、脳の可塑性の本質を探求しニューロンの学習の仕組みに関する持論を展開しています。

シナプスが学習を司る

The last frontier

“It’s fairly well established scientifically that the learning units in the brain are the synapses,”

「シナプスが脳における学習ユニットである事は科学的にかなり定着しています。」

その脳の学習方法を模倣したのが、人工シナプスを使ったAI(人工知能)です。

“Many neuroscientists think that synaptic learning requires new proteins made locally right at the synapse, which acts as its own control center.”

「多くの神経科学者たちは、シナプス学習が、それ自身が司令塔の機能を果たしているシナプスで、新しいタンパク質が局所的に作られる事を要求していると考えています。」

ニューロンは、細胞体と、シナプスで他の細胞から得た刺激が細胞体に送られている枝分かれした突起物の樹状突起を含む大きな細胞です。理論的には、学習は、シナプス接合部で起こっています。しかし、非常に多くの数千ものシナプスが、それらの全てが、RNAが新しいタンパク質を作り出すことに関与させることができることを考え難くしています。なので、コシク氏は計算をしました。利用可能なテクニックを使って、染色体の2つのDNAコピーに由来する細胞中のRNAの実際のコピー数を計算しました。

全てのシナプスが学習に携わっているようではないみたいな感じです。

”デンドライトは、実際そんなに多くの RNA は持ってはいませんが、仕事をきっちりこなしている事からも十分持っているのは明白です。”とコシク氏は説明しました。”何が驚きかと言えば、それらが比較的少ない RNA を使ってそれを成し遂げていることです。つまり、どのRNAも手の届かないシナプスが多数存在し、その結果、そういったシナプスは、可塑性に利用できなくなってしまっています。人が、大部分が学習に携わることができない脳を持ったとしたら、その場合、何が起こるのでしょうか?”

学習に使われない(使うことができない)多くのシナプスが存在しているようです。

ダイナミックレンジ

コシク氏は、比較的少数のRNAを持つことが、シナプスが増大したダイナミックレンジを活用することを可能にしている事に言及しました。最も分かりやすい例えが、低音量と高音量での音の忠実性を持って機能する音響システムです。デンドライトは、インプットが少なかったり多かったりする時に、忠実性を持って機能する必要があります。わずかな量のRNAを持つ事が、デンドライトへの情報流入量が多い時に、動的にプールを広げるための量的空間を提供してくれています。

ダイナミックレンジとは、小音量から大音量までの再現可能な幅で、この幅が大きい(広い)と音の強弱が大きくなり(広がり)、ダイナミックな音表現ができるみたいです。ダイナミックレンジが小さい(狭い)と、音量を上げても、ただうるさいだけの、音の再現性に乏しい(忠実度が低い)ものになってしまうようです。つまり、デンドライトは、情報が少ない時も、多い時も同じような忠実度を持つ必要があり、その幅が大きいほど、シナプスはダイナミックに学習をすることが可能になるという事だと、勝手に解釈しました。

スパースコーディング

”ダイナミックレンジが、デンドライトが流入情報量に応じてそれらの学習能力を2倍、3倍、さらには4倍に増やすことを可能にしています。”とコシク氏は説明した。”また、それは、疎表現を可能にしています。”

sparse coding = スパースコーディング(疎表現)は、ニューラルネットに流入してくる大量の情報の中から、本当に必要な少量の必須情報を抽出する技術みたいです。

Another concept in neurobiology, sparse coding plays a role in how neurons process incoming information by using the representation of our memories and perceptions through the strong activation of a relatively small set of neurons. For each stimulus, this is a different activated subset utilized from the large pool of all available neurons.

「神経生物学のもう1つのコンセプト、スパースコーディングは、ニューロンが、比較的小さいセットのニューロンの強い活性化を介した、人間の記憶と知覚の表象を使って、流入情報を処理する仕組みに関与しています。それぞれの刺激にとっては、これは、全ての利用可能なニューロンの大プールから利用される、異なった活性サブセットです。」

ニューロンがインプット(入力)情報(刺激)を処理する時、それざれの刺激に対し、別々の比較的小さな強く活性化されたニューロンのサブセットが使われているみたいです。

Kosik explained the concept in terms of discerning odors. Too many odors exist for each one to have a unique pattern of firing neurons. Rather, the brain creates small maps. One odor might have 10 neurons that encode it, seven of which also encode a different odor, creating an overlap.

「コシク氏は、匂いの差異を認識する観点から、その概念を説明しています。各々の匂いが発火ニューロン特有のパターンを持つには、あまりにも多くの匂いが存在しています。正しくは、脳は小さな地図を作り出しています。1つの匂いは、それをエンコードしている10個のニューロンを持っているかもしれません。そのうち7個のニューロンは、別の匂いもエンコードしていて、重複部分を作り出しています。」

”同じように、デンドライトが比較的少数のRNAを所有しているというこの考え方は、それらが、より少数のインプットを受け取る事を可能にしています。”とコシク氏は語った。”樹状木に入ってくる多くのインプットが存在しますが、それらのほんのわずかだけが学習可能です。ニューロンの中に入って来るある種の学習のことを、我々は可塑性と呼んでいます。そういうわけなので、デンドライトは、タンパク質合成が利用可能な刺激からのみ学習していまて、スパースコーディングの一例でもあります。”

大量の情報がニューロンに入ってきますが、ほとんどが学習される必要が無いガベージ情報なので、大量にインプットされた情報の中から、本当に必要なインプットだけが学習されるという、ニューラルネットのスパースコーディングの1つの好例になっています。

シナプス再生

“The RNAs near synapses inform us as to those synapses which have undergone plasticity, but like learning itself, the RNAs are not static,” Kosik added. “The RNAs like where they are. They do a good job where they are, but they eventually degrade and have to be remade, and in so doing, they may not necessarily return to their original location. Those small changes may impair our access to a memory, but now another nearby synapse is open to novelty and has an opportunity to learn a new thing.”

「”シナプス近傍のRNAは、我々に、可塑性を経験しているそれらシナプスについての情報を提供してくれます。”とコシク氏は付け加えた。”RNAは、自分たちがいる場所を気に入っています。彼等は、自分達の持ち場で良い仕事をしていますが、最終的には、劣化してしまい、リメイク(作り直す)される必要があり、その際、彼等は、必ずしも元いた場所に戻ってくるとは限らない可能性があります。そういった小さな変化が、我々の記憶へのアクセスを損ねているかもしれませんが、しかしすぐに、別の近隣にいるシナプスが、目新しいことに対しオープンで、新しい物事を学習する機会を持つことになります。”」

シナプスが劣化してリメイクされる時に、元の場所に戻って来ないことが物忘れの原因である可能性があるようです。劣化してどんどん記憶していた事を忘れていったとしても、別のシナプスが新しいことをどんどん学習していくらしいので、好奇心はそこから来ているのかもしれません。物心ついた時の記憶が少しは残っているのは、ニューロンが再生される度に元いた場所に戻って来るからなのかもしれません。しかし、脳の可塑性に絡んでいるシナプスが、利用可能なRNAが少ないことが原因で(あるいは、RNAが利用可能なシナプスが少ない)、相当数存在することは意外でした。それが、人間は脳のほんの一部しか使っていないという事の意味かもしれないと、ここでも勝手に解釈しておきます。