理論化されてからほぼ1世紀、ハーバード大学科学者達は、最もレアで恐らく地球上に存在する物質の中で最も価値がある物の1つを作り出すことに成功しました。その物質、原子状金属水素は、自然科学部のThomas D. Cabot Professorであるアイザック・シルヴェラ教授とポスドク特別研究員のランガ・ディアス氏によって作り出されました。
科学者達が物質本来の性質についての基本的な疑問に答えることを手助けすることに加え、その物質は、室温超伝導体としてなどの幅広い分野に応用できることが理論的に想定されています。その稀な物質の生成は、1月26日号のサイエンス誌に掲載されました。
固体金属水素
Metallic hydrogen, once theory, becomes reality
”これは高圧物理学の聖杯です。”とシルヴェラ氏は言いました。”それは、地球上で史上初めての金属水素のサンプルなので、もしそれを見たら、未知の物を見ていることになります。”
それを作り出すために、シルヴェラ教授とディアス氏は、微小な水素サンプルを、495ギガパスカル、あるいは、7170万psi(pounds-per-square inch:プサイ)以上の、地球の中心の圧力以上の圧力で圧搾しました。その限界を越えた圧力下で、固体の格子サイト上の分子から成る、固体水素分子は潰れ、強固に結合した分子は、金属である原子状水素に変形・解離します。
今回の研究が、水素の一般性質の理解に対する、重要な新しい知る機会を提供していますが、また同時に、潜在的に革命的な新しい物質の興味を掻き立てるヒントも与えてくれています。
”非常に重要な予測の1つが、金属水素が準安定であるという予測です。”と教授は語った。”その事は、たとえ圧力を解放したとしても金属のままということを意味していて、ダイヤモンドが超高温高圧下でグラファイトから形成されますが、その圧力と温度が取り除かれてもダイヤモンドのままというのと似ています。”
夢の室温超伝導体
その物質が安定的かどうかを理解することは、金属水素が室温で超伝導体となることができるかもしれないという予測がなされているので重要です。
それが本当なら革命的ですと教授は言いました。エネルギーの15%程度が、送電中に消散して失われているので、この物質から電線を作れてそれらを配電網に使えれば、話は変わります。
物理学の喉から手が出るほど欲しい現象の中でも、室温超伝導体は、磁気浮上高速列車を可能にすることで、輸送システムに劇的な変革をもたらすだけではなく、電気車をもっと高効率にしたり、多くの電子デバイスの性能を向上させてもくれます。
その物質は、また、エネルギー生産と貯蔵においても、超伝導体が抵抗ゼロなので、エネルギーは、超伝導コイル中に電流として保存して必要な時に使え、大きな改善を与えてくれます。
史上最強のロケット燃料
それは地球上の生活を根底から変える潜在性を秘めていますが、金属水素は、人類が宇宙の彼方を探索することに対しても、それが今まで発見された中で最も強力なロケット推進剤でもあるので、重要な役割を演じることができます。
金属水素を作るためには有り得ないほどの物凄いエネルギーが必要です。それを元の水素分子に戻した場合、その全エネルギーが一気に解放されるので、人類史上最強最良のロケット推進材になり、その事が、ロケット工学の分野に大変革をもたらしてくれます。
The most powerful fuels in use today are characterized by a “specific impulse” – a measure, in seconds, of how fast a propellant is fired from the back of a rocket – of 450 seconds. The specific impulse for metallic hydrogen, by comparison, is theorized to be 1,700 seconds.
「現在使われている最もパワフルなロケット燃料は、450秒の比推力(ロケット後部からの推進剤の噴射速度の秒を使った度合い)によって表されています。この数字で金属水素の比推力を比較した場合、1700秒になることが理論予測されています。」
比推力は、推進剤がどのくらい長く推力を維持し続けられるかを表しているようです。この数値を10倍したものが噴射速度になるようです。なので、金属水素は、現在最強のロケット燃料の約3倍の比推力(約30倍の噴射速度)を持っている事になります。つまり、現在最強のロケット燃料の噴射速度が4500m/sなのに対し、金属水素は、17000m/sという事になるみたいです。
”それは、人類が外惑星を探索することを簡単に可能にしてくれます。2段階に対して、たったの1段階でロケットを軌道に乗せることができ、より大きな最大積載量を打ち上げることができるようになるので、その事は非常に重要な事でもあるのです。”とシルヴェラ教授は言った。
金属水素の作成法
新しい材料を作るのに、研究者達は地球最硬物質の1つのダイヤに助けを求めました。しかしただ天然ダイヤを使うのではなく、彼等は、最新の注意を払って磨かれた合成ダイヤの2つの微小片をさらに強化するために処理を施した後に、ダイヤモンドアンビルセルとして知られているデバイスに、互いに向かい合わせにマウントして利用しました。
diamond anvil cell = ダイヤモンド・アンビル・セル
”ダイヤモンドは、ダイヤモンドパウダーを使って磨かれ、その事が、表面から炭素をえぐり出すことを可能にします。我々が原子間力顕微鏡を使ってダイヤモンドを観察した時、それを弱くして壊す原因になる欠陥を見つけ出しました。”と教授は言いました。
その欠陥を解消するための解決策は、ほんの5ミクロン厚、あるいは、人間の髪の毛の約10分の1しかない薄層を、ダイヤの表面から削り取るために、reactive ion etching (反応性イオンエッチング)プロセスを使うことでした。ダイヤモンドは、その後、水素が結晶構造中に拡散してそれらを砕けやすくする事から保護するために酸化アルミニウムの薄膜で被膜されました。
40年以上の金属水素研究の後で、そして、それが最初に理論化されてからほぼ1世紀後に、その物質を遂に目撃することはスリル満点です。とシルヴェラ教授は言いました。
”それは本当にエキサイティングでした。ランガ氏が実験をしていて、私たちは、自分達が目的を達成できるかもしれないと思っていたのですが、彼が私に電話で、試料が光っています、と言った時、私はそこに走って行ったら、それは金属水素だったのです。”と教授は語った。
”私は即座に、それを確証するために測定する必要があると言い、そういうわけで、我々は研究室を模様替えし、そしてそれが我々が行った事です。”と彼は語った。”それは素晴らしい業績であると共に、たとえ、それが、高圧下でこのダイヤモンド・アンビル・セル中にのみ存在可能であったとしても、それは非常にファンダメンタルで変革をもたらす大発見なのです。”
現段階ではそれがmeta-stable(準安定)かどうかは分からないようです。ただ、この金属水素が本当に超高圧下でダイヤモンド・アンビル・セルの中でしか存在できないとしたら、それは何の実用性もない事を意味し、物理学的には偉業かもしれませんが、実用性がゼロなことを考えた場合、果たして研究に意味があるのかという気もしますが、ただ、金属水素が室温超伝導体の可能性があるという夢を打ち砕くには十分で、それだけでも価値があるのかもしれません。