一般的に灰色スズと呼ばれているαスズが、その結晶構造に負荷をかけられると、トポロジカルディラック半金属(TDSs)と呼ばれる非常にまれな新しいクラスの3次元物質に特有な、新奇な電子祖を発現するいう驚くべき発見をしています。現在までに、TDS材は、2013年に発見されたばかりのを含め、たったの2つしか知られていません。アルファスズは、今回、唯一の単一元素で構成されたそれのメンバーとして名前を連ねています。
トポロジカルディラック半金属
Gray tin exhibits novel topological electronic properties in 3-D
This discovery holds promise for novel physics and many potential applications in technology. The findings are the work of Caizhi Xu, a physics graduate student at the University of Illinois at Urbana-Champaign, working under U. of I. Professor Tai-Chang Chiang and in collaboration with scientists at the Advanced Light Source at the Lawrence Berkeley National Laboratory and six other institutions internationally.
今回の新発見は、物理学の新境地を開拓し、多くの潜在的なアプリケーションをもたらす可能性があります。今回の発見は、イリノイ大学アーバナシャンペーン校の研究者と、ローレンスバークレー国立研究所の改良型放射光施設、他の国際的な研究所の研究者達とのコラボによって達成された研究成果によります。
TDSs exhibit electronic properties akin to those of the now much-studied topological insulators (TIs) on their surfaces. The surfaces of TIs allow electrons to conduct freely like a metal, while the “bulk” or interior behaves as an insulator. The surface electrons behave as 2D massless spin-polarized Dirac fermions that are robust against non-magnetic impurities, which yields potential applications in spintronic devices and fault-tolerant quantum computing.
TDSsは、その表面に、昨今、非常に良く研究されているトポロジカル絶縁体(TIs)に良く似た電子特性を示しています。TIの表面は、金属のように電子が自由に移動できますが、中身は絶縁体として振る舞います。表面電子は、スピントロニクスデバイスや誤り耐性量子コンピュータの潜在的なアプリケーションを産み出す、非磁性不純物に非常に耐性がある、2次元で質量ゼロのスピン偏極したディラック電子として振る舞います。
それに反し、TDSのバルク電子は、新しい付加的な物理的挙動を可能にする、全三次元質量ゼロディラック電子として振る舞います。
Xu explains, “TDSs are of profound interest to condensed matter physicists, primarily because they exhibit a number of novel physical properties, including ultrahigh carrier mobility, giant linear magnetoresistance, chiral anomaly, and novel quantum oscillations. Secondly, this class of materials can realize many interesting topological phases–under controlled conditions, the material can undergo phase transitions and can become a topological insulator, a Weyl semimetal, or a topological superconductor.”
スー氏は、”TDSは、主に、それらが、極めて高いキャリア移動度、巨大な線形磁気抵抗、カイラル異常、新奇量子振動を含む、多くの今までにない物理的特性を示すという理由から、凝縮物理学者達に大きな関心を持たせています。第二に、このクラスの物質は、制御された条件下において、多くの興味深いトポロジカル相を実現でき、その物質は、相転移可能で、トポロジカル絶縁体、ワイル半金属、トポロジカル超伝導体になることができます。”と言ってます。
アルファ錫(αスズ、灰色スズ)
Tin has two well-known allotropes: at 13.2? Celsius and above, white tin, or beta-tin, is metallic. Below that temperature, the atomic structure of tin transitions, and the material becomes gray tin, or alpha-tin, which is semi-metallic. In thin films grown on a substrate such as indium antimonide (InSb), however, the transition temperature of tin goes up to 200? C, which means alpha-tin remains stable well above room temperature.
スズは、2つのとても良く知られた同素体を持っています。13.2℃以上では、白スズ(βスズ)は金属ですが、その温度に満たないと、スズの原子構造が、半金属である灰色スズ(αスズ)に転移します。アンチモン化インジウム等の基板上で成長した薄膜では、しかしながら、スズの遷移温度は、最大で200℃まで上昇し、α錫は、室温よりも高温で安定し続ける事が可能です。
通常、アルファ錫のダイヤモンド立方結晶構造は、平凡な半金属相しか持っていないので、現時点では、たいした使い途はありません。実際、灰色錫は、スズを含む多くの用途で問題を引き起こしていて、いわゆる、スズペスト問題と言われる問題は、白色スズを含むパーツの崩壊の原因になる灰色スズの形成を意味しています。
In their experiment, Xu et al. engineered a strain on the material by growing alpha-tin samples in layers on a substrate of another crystalline material, InSb, which has a slightly different lattice constant.
彼らの実験で、スー氏等は、アルファスズ試料を、若干異なる格子定数を持つ、別の結晶性物質であるInSb基板上の層で成長させることで、その物質に負荷をかけています。
“That lattice mismatch leads to strain, or compression, in the alpha-tin,” Xu goes on to explain. “It was believed that strain would open a band gap in gray tin and turn it into a TI. In a few recent studies researchers observed topological surface states in strained tin, but they didn’t observe the strain-induced band gap because they were not able to access the conduction band. In this study, we used potassium doping and with this simple method were able to reach the conductance band. We were able to see the gapless and linear band dispersion that is the hallmark of a Dirac semimetal.
”その格子不整合が、α錫に対する歪み(圧縮)をもたらしています。”と、スー氏は説明を続けています。”その歪みが、灰色錫にバンドギャップを与え、それをTIに変えています。いくつかの直近の研究の中で、研究者達は、歪みスズでトポロジカル表面状態を観測していますが、伝導バンド(伝導帯)にアクセスする事ができなかったので、ひずみ誘起バンドギャップを観測することができませんでした。本研究の中で、我々は、カリウムドーピングを用い、この単純な方法を使って、伝導帯を観測することができ、ディラック半金属の顕著な特徴である、ギャップレスかつ線形バンド分散を目撃することができました。”
”この発見は、ある意味、予想外でした。私は、有名なTI相のおかげで、その物質を研究することを決め、実験結果を突っ込んで研究し、いくつかの理論計算を実行するやいなや、圧縮ひずみ下では、αスズが、思っていた通り、絶縁体ではないことを発見しました。それが、ディラック半金属である事が判明しています。我々の計算が、アルファスズが、トポロジカル絶縁体になるのは、引っ張りひずみの条件下のみであることを明らかにしています。”
strain engineering(歪工学)
チャン氏は、こういった発見の数々が、新しい研究の道を開くと確信しています。”スー氏の研究は、新しい興味深い物理学が、未だに、数十年間にわたって知られて研究し尽されている灰色スズのような、単純な汎用材で発見され得ることを例証してくれています。”
“It’s clear from this study that strain engineering can open up many possibilities,” Chiang continues. “My group is currently exploring a different way to apply strain, by mechanically stretching a sample. The strain will be uniaxial–along one direction only–and it will be tunable, but limited by sample breakage.”
”歪み工学が、多くの可能性を切り開くことができることが、今回の研究から明らかになっています。”と、チャン氏は続けます。”私のグループは、現在、数学的にサンプルを引き伸ばすことで、歪を印加するための別の方法を探しています。その歪は、一方向のみの一軸性で、調整可能ではあるのですが、サンプル破損によって制限されています。”
Mankind has extracted and used tin in alloys since the Bronze Age, c. 3000 BC. Before the advent of aluminum cans, tin cans, which were actually steel lined with tin, were used in preservation of food. With this discovery, alpha-tin may prove a highly useful material in future technologies.
人類は、紀元前3000年の青銅器時代から、合金にスズを抽出・利用しています。アルミニウム缶の出現以前、実際には、鉄がスズに裏打ちされているスズ缶が、食料を保存するのに利用されていました。この発見で、α錫が、次世代技術でかなり使える材料になるかもしれません。
”トポロジカルディラック半金属としてのアルファ錫の潜在的な用途には、超高速電子デバイスを作り出すのに、その高いキャリア移動度の利用も含んでいます。加えて、その巨大な磁気抵抗が、ハードディスクのような超小型記憶装置開発にも利用できるかもしれません。”
“Furthermore, this material could be a platform for further fundamental research related to optical properties, or to transport properties, including superconductivity. There is even potential that it could be used as a platform to realize Majorana fermions. I believe our new finding will be of interest to many physicists.”
”さらに、この材料は、超電導を含む、光学的性質や輸送特性に関連した、追加的な基礎研究のプラットフォームになり得ます。マヨラナ粒子を実現するためのプラットフォームとしても利用できるかもしれない潜在性をも秘めています。私は、今回の我々の新しい発見が、世界中の多くの物理学者たちの関心を集めるだろうと信じています。”
トポロジカル量子コンピュータに必須な、マヨラーナ粒子にも転用可能なら、この歪加工されたアルファスズは、相当高いポテンシャルを抱えている事になります。しかも室温で利用可能なので、色々な用途に応用が効きそうです。ディラック電子系の素材は、現在、世界中で競って研究されています。今回の発見は、ありふれた物質が、ちょとした加工で、思いがけない特性を開眼するという、科学の最も基本的な概念を、改めて教えてくれています。