二酸化チタン(TiO2)は、昨今、光起電力技術と光触媒作用分野における、最も有望な材料の一つになっています。この物質の数ある結晶構造の中でも、特に魅力的な構造が、anatase(アナターゼ)と呼ばれれています。アナターゼ二酸化チタンにおける、数十年に渡る、吸収した光を電荷に変換するための研究にもかかわらず、その物質の基本的な電子物性と光学的性質の本質については、未だによく分かっていません。国内外の研究パートナー等と共に、スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)の研究者たちは、理論計算に加えて、最先端定常状態と超高速分光技術を組み合わせることで、その疑問を解明しています。本研究は、Nature Communications誌に掲載されています。
アナターゼ二酸化チタン
Shedding light on the absorption of light by titanium dioxide
Anatase TiO2 is involved in a wide range of applications, ranging from photovoltaics and photocatalysis to self-cleaning glasses, and water and air purification. All of these are based on the absorption of light and its subsequent conversion into electrical charges. Given its widespread use in various applications, TiO2 has been one of the most studied materials in the twentieth century, both experimentally and theoretically.
アナターゼ二酸化チタンは、太陽光発電や光化学触媒から自浄式ガラス、水と空気の清浄まで幅広い用途に利用されています。これら全てが、光を吸収して電荷に変換する、その物質の特性に基づいています。その物質が、さまざまな分野において、多岐に渡り応用されている事を鑑みれば、二酸化チタンが、実験・理論的に、20世紀で最も研究された物質の1つと言えます。
電子・ホール対(エキシトン)
When light shines on a semiconducting material such as TiO2, it generates either free negative (electrons) and positive (holes) charges or a bound neutral electron-hole pair, called an exciton. Excitons are of great interest because they can transport both energy and charges on a nanoscale level, and form the basis of an entire field of next-generation electronics, called “excitonics”. The problem with TiO2 so far is that we have not been able to clearly identify the nature and properties of the physical object that absorbs light and characterize its properties.
二酸化チタン等の半導体材に光が当たると、マイナス(電子)とプラス(ホール)電荷か、エキシトンと呼ばれる、中性の結合電子・ホール対のどちらかを形成します。エキシトンは、ナノスケールレベルで、エネルギーとチャージの両方を輸送でき、エキシトニクスと呼ばれる次世代エレクトロニクスの全領域の基礎を形成している事から、非常に大きな関心を集めています。現在までの二酸化チタンに関する問題は、光を吸収して自身の性質を特徴付けている物理的対象の本質と特性をはっきりと同定できていないことにあります。
定常角度分解光電子分光法
The group of Majed Chergui at EPFL, along with national and international colleagues, have shed light on this long-standing question by using a combination of cutting-edge experimental methods: steady-state angle-resolved photoemission spectroscopy (ARPES), which maps the energetics of the electrons along the different axis in the solid; spectroscopic ellipsometry, which determines the optical properties of the solid with high accuracy; and ultrafast two-dimensional deep-ultraviolet spectroscopy, used for the first time in the study of materials, along with state-of-the-art first-principles theoretical tools.
EPFLの研究チームは、国内外の同僚等と共同で、固体の異なる軸沿いの電子エネルギーをマップ化する、最先端の実験手法の定常角度分解光電子分光法と、高精度で固体の光学的性質を判定する分光偏光解析法、材料研究で初めて使われた、超高速2次元遠紫外線分光法、さらに、最新式第一原理理論ツールのコンビネーションを使って、積年の疑問に光を当てています。
強結合エキシトン
彼らは、光吸収スペクトルの閾値が、2つの驚くべき新奇な特性を示す、強く結合したエキシトンに起因していることを発見しました。先ず何よりも、それは、物質の3次元格子の2次元面に閉じ込められていて、そのような事例が、凝縮物質で報告されたのは、今回が初めてです。もう1つは、この2次元励起子が、あらゆる種類(単結晶、薄膜、デバイスで使われるナノ粒子)の二酸化チタンに存在しているので、室温で安定し、欠陥に対して頑強であるという事です。
このエキシトンの長距離構造的無秩序と構造欠陥に対する免疫が、光の形で入射エネルギーをを貯蔵し、それを選択的にナノスケールで誘導可能です。この事が、吸収された光エネルギーが熱として結晶格子で消散されてしまっている、現在の技術に比べて、従来式の励起スキームを非常に効率的にしてくれているので、かなり大きな改善が期待できます。
さらに、新たに発見されたエキシトンは、物質中のさまざまな外的・内的刺激(温度、圧力、過剰な電子密度)に対して非常に感受性が強いので、光学的な読み取り機能を持った、パワフルで高精度かつ安価な検出スキームのための道を切り開いてくれます。
アナターゼ二酸化チタン材は、加工するのが安価で簡単なので、こういった発見は、多くの既存の用途や将来的な応用には欠かせません。電荷が、光が吸収された後で、どのようにして作り出されているのかを理解することは、高効率の光触媒にとって重要な要素になっています。
アナターゼ二酸化チタンが、全く新しいエレクトロニクス分野である、エキシトニクスという新しい分野を切り開いてくれるようです。スピントロニクスやバレートロニクスに次ぐ、第4のエレクトロニクスということなのかもしれません。かなり期待できる新技術と言えます。