人間の脳は金食い虫です。代謝的に言えばの話ですが。脳は、人間の高度に発達した灰白質を働かせるのに、莫大なエネルギーを必要とし、それには、進化的代償を伴います。私達が、素早い思考と激しい運動を同時に実行する必要性に迫られた時に、私達の内部で即座に起こるトレードオフに関する新しい研究が、思考と運動の双方が影響を受けるのですが、思考能力は、運動能力に比べ、影響をあまり受けないことを、今回初めて立証しています。
脳は筋肉に優先する
‘Selfish brain’ wins out when competing with muscle power, study finds
Researchers say that the findings suggest a “preferential allocation of glucose to the brain”, which they argue is likely to be an evolved trait – as prioritising quick thinking over fast moving, for example, may have helped our species survive and thrive.
研究者達は、今回の研究の結果は、彼等が主張する”脳への優先的グルコース割当”が、例えば、素早い動作よりも素早い思考が優先されることが、人の種が、生存・繁栄するのを手助けした可能性があるので、進化特性である可能性が高いことを示唆していると言っています。
脳筋とか筋肉馬鹿なんて言葉があるように、体を鍛えまくって筋肉ムキムキの人間は、脳以上に筋肉が優先されているようにも見えます。脳までもが筋肉化しているのかもしれませんが、脳の成長よりも筋肉の成長が優先されてしまったとしか言えません。しかし、例えば、戦場においては、考えるより先に行動することが長生きの秘訣と言われていますが(Shoot first, ask questions later)、こういう考え方が筋肉馬鹿とも言われています。戦争にも、rules of engagement(交戦規則)というものが存在するので、行動する前に思考が要求されています。
自己中脳仮説
The team say the results of their new study, published today in the journal Scientific Reports, add evidence to the ‘selfish brain’ hypothesis: that the brain has evolved to prioritise its own energy needs over those of peripheral organs, such as skeletal muscle.
本研究チームは、Scientific Reports誌に掲載された、彼等の新しい研究の結果が、脳が、骨格筋のような末梢器官のエネルギーニーズよりも、自身のニーズを優先させるように進化してきたという自己中脳仮説に対する証拠を付け加えていると言っています。
脳が司令塔ということを考えれば、司令塔死守は生存の最低条件なので、他の器官よりも優先されて当然であるとも言えます。人間は脳を優先させることで、他の屈強な野生動物(クマとかライオン)に比べると、体力的に相当しょぼい存在に成り下がりましたが、それでも、道具を使うことで体力的なしょぼさをカバーしています。人間はゴリラのような力だけの筋肉馬鹿とは違うということです。
脳を優先させることの代償
“Trade-offs between organs and tissues allow many organisms to endure conditions of energy deficit through internal prioritising. However, this comes at a cost,” said Longman.
”臓器と組織の間のトレードオフが、多くの生物が、体内の優先順位付けによって、エネルギー欠乏状態に耐えることを可能にしています。しかし、これには代償が伴います。”
He points to examples of this trade-off in humans benefiting the brain. “The selfish nature of the brain has been observed in the unique preservation of brain mass as bodies waste away in people suffering from long-term malnutrition or starvation, as well as in children born with growth restriction.”
ロングマン氏は、人では、このトレードオフが脳に利益を与える例を挙げています。”脳の自己中心的本質は、長期的な栄養失調もしくは飢餓に苦しむ人達や、発育遅延で生まれた子供達の身体が衰弱していく時の、脳の質量だけが維持されることに見られます。”
飢饉の時など、筋肉がなくなって、骨と皮だけになったガリガリの人達を目にしますが、そういう人達でさえも、脳だけは質量を維持しているみたいです。脳さえ健全なら、食料を確保することが可能ならいいんですが、実際は、脳が食料調達のための良い方法を考え出したとしても、もはやそれを実行するだけの体力というか筋力が残っていないので、所詮は、机上の空論に終わってしまいます。
骨格筋は、男性の基礎代謝率(安静時エネルギー消費)の20%の割合を占めているので、かなりのエネルギー食い虫であると言えます。筋肉と脳のエネルギー争奪合戦は、常に、脳に軍配が上がるようですが、その代償は大きく、人を動物の中でも、最低部類に入る虚弱なものにしてしまっています。ほとんどの人間は、素手だと、恐らく、大型犬以下の戦闘力だし、武器がなければ、家畜の牛や馬にも勝てません。あまりにも弱すぎる生き物ですが、凶器を持てば最凶の生物に変身します。
脳が自己保身のために他の臓器や組織を犠牲にする以上、脳に指図される我々人間が、自己保身のために他者や他の生物を犠牲にするのは仕方のないことなのかもしれません。自分と自分の家族が生き残ることが、人間の唯一の生存目的であり、今現在、生存している理由でもあるので、自己保身に走ることは、倫理的には間違っていても、進化論的には正しいことなのかもしれません。