数百万年にわたって、レトロウイルスは人間の DNA の中に取り込まれていて、今現在それらは、総ゲノムの約10%を構成しています。スウェーデンにあるルンド大学の研究グループは、現在、こういったレトロウィルスが遺伝子発現に影響を与えているかもしれないメカニズムを発見しています。この事は、それらが人間の脳の発達はもちろん、様々な神経系の病気においても、重要な役割を果たしている可能性がある事を意味しています。
内在性レトロウイルス
Viruses in the genome important for our brain
レトロウィルスは、HIVのような危険な種も含む一方で、他は無害と考えられている特殊なウィルスのグループです。ルンドのヨハン・ヤコブソン氏と彼の同僚等によって研究されているウイルスは、数百万年にわたり、それらが、人間のゲノムの中に存在し続けているので、endogenous retroviruses (内在性レトロウイルス、ERV)と呼ばれています。それらは、以前は重要でないと見なされていたので、junk-DNA(ジャンクDNA)と呼ばれているDNAの一部で見られます。”体内で様々な蛋白質の生産をコントロールしている遺伝子は、人のDNAのうち、内在性レトロウイルスよりも少ない部分を構成しています。それらは、大体2%の割合を占めています。もし、それらが、蛋白質の生産に影響を与えることができることが分かれば、この事は、我々に、人間の脳に関する、巨大な新しい情報源を提供してくれるに違いありません”と、ヨハン・ヤコブソン氏は言っています。
TRIM28の結合プラットフォーム
そしてこの事がまさに研究者達が発見した事です。彼等は、人のゲノム中に定着している数千のレトロウィルスが、TRIM28と呼ばれている蛋白質の結合プラットフォームとしての機能を果たしているかもしれないことを割り出しています。このタンパク質は、ウィルスだけではなく DNA らせん中のそれらに隣接した標準遺伝子のスイッチを切るための能力も有していて、ERVの存在が遺伝子発現に影響を与えるのを可能にしています。
このスイッチを切るメカニズムは、レトロウイルスが、ゲノム中の色々な場所に落ち着く可能性がある遺伝物質の一種であるので、人によって違う振る舞いをしているかもしれません。この事が、それを進化の有力なツールにし、神経系の病気の潜在的な根本原因にしてさえいます。実際に、ALS(Amyotrophic lateral sclerosis、筋萎縮性側索硬化症)、統合失調症、双極性障害(躁鬱病)等の、いくつかの神経系疾患における、ERVの逸脱規制を指し示している、いくつかの研究が存在しています。
ERVがニューロン規制
2年前、ヨハン・ヤコブソン氏のチームは、ERVが特にニューロンを規制する役目を持つことを発見していますが、この研究がネズミで行わたのに対して、Cell Reports誌に掲載された新しい研究は、人の細胞を使って行われました。
The differences between mice and humans are particularly important in this context. Many of the retroviruses that have been built into the human DNA do not exist in species other than humans and our closest relatives — gorillas and chimpanzees. They seem to have incorporated themselves into the genome some 35-45 million years ago, when the evolutionary lineage of primates was divided between the Old and New World.
「ネズミと人の間の違いは、この前後関係においては特に重要です。人のDNAに組み込まれている多くのレトロウィルスは、人や人の近親種(ゴリラやチンパンジー)以外の種には存在しません。それらは、約3500万~4500万年前に、霊長類の進化系統が旧世界と新世界に二分された時に、ゲノムの中に自身を組み込んだように思われます。」
“Much of what we know about the overall development of the brain comes from the fruit fly, zebrafish and mouse. However, if endogenous retroviruses affect brain function, and we have our own set of these ERV, the mechanisms they affect may have contributed to the development of the human brain”, says Johan Jakobsson.
「”脳の総合的な発達について我々が知っている事のほとんどが、ショウジョウバエ、ゼブラフィッシュ、ネズミによってもたらされています。しかし、もし、内在性レトロウイルスが、脳機能に影響を与えていて、人が人固有のこういったERVの組み合わせを持っているとしたら、それらが影響を与えているメカニズムが、人の脳の発達に寄与している可能性があります。”と、ヨハン・ヤコブソン氏は言っています。」
ゲノム内の内在性レトロウイルスが人の脳の発達に影響を与えている可能性があるかもしれないというのは、かなりショッキングな仮説ですが、だとしたら、人間の脳がここまで特殊化したのは、全てレトロウィルスのおかげという事になりそうです。