プリンストン、エール、チューリッヒ大学の研究者は、科学者が他の似たような特性を持つ物質を見つけるのに役立つように、エキゾチックな電子特性を有する物質群を分類するための理論ベースアプローチを提唱しています。Physical Review X 誌に掲載された新しい論文が、対称性と、特殊な電子物性の予知となる位相不変量として知られる数学的分類に基づいた新種の金属を説明しています。位相物質は2000年代初めから多くの研究関心を集め、去年のノーベル物理学賞がこの分野の理論的発見に対して3人の物理学者に授与されたことで頂点を迎えています。
位相的分類
Theorists propose new class of topological metals with exotic electronic properties
”位相的分類は、物質の性質を考察するためのとても一般的な方法です。”と、ロベルト・カー教授の研究室所属で今回の論文の筆頭著者プリンストン院生ルーカス・ミュヒラー氏が言いました。この抽象的数学的分類のよく知られた説明法は朝食アイテムを含みます。位相分類では、ドーナッツとコーヒーカップが、それらがどちらも1つの穴を持ち、お互いの形にスムーズに変形できるので同等です。その一方で、ドーナツはマフィンには変形できないのでそれらを非同等にしています。穴の数は、ドーナツとコーヒーカップでは等しい反面、ドーナツとマフィンを区別している、位相不変の1つの例です。”その発想は、細部に関しては絶対に気にしないという事です。2つの物質が同じtopologically equivalent (位相不変) を持っている限り、それらがトポロジカル(位相)的に同等であると言う事ができるのです。”と、彼は言いました。
二テルル化タングステン
今回の新しい金属クラスのtopological classification (位相分類)へのミュヒラー氏等の関心は、氏の研究室に隣接する、プリンストン大ロバート・カバ教授の研究室における、特異な発見によってもたらされています。WTe2(Tungsten Ditelluride:二テルル化タングステン) と呼ばれる結晶の超伝導性を探索中、カバ研究室はその物質が磁場の強大化に応答して連続的に抵抗を増すことが可能なことを代わりに発見しました。この性質は、磁場センサー構築に使えるかもしれません。
この特性の起源は、しかしながら、今のところまだはっきりしていません。”この物質は、非常に興味深い特性を持っていますが、その事を説明できる理論は今までありませんでした。”と、ミュヒラー氏は言いました。
研究者達は、手始めに、WTe2結晶の原子の配列を検討しました。原子の配列におけるパターンは、対称性として知られていて、それらは、二つの根本的に異なるクラスに分類されます。電磁場中での電流輸送等の電子物性で顕著な違いをもたらしているsymmorphic(シンモルフィック)とnonsymmorphic(ノンシンモルフィック)です。
非共型トポロジカル金属
WTe2は、互いの上に積層されている多くの原子層で構成されている一方で、カー氏のチームは、単一原子層が、もし最初に回転された後で、わずかな格子周期によって平行移動された場合、原子配列が、全体的に不変である特有の非共型対称性を持つことを発見しています。対称性を確証した後で、研究者達は、この対称性が持ち得る全ての電子状態を数学的に明らかにし、ドーナツがカップに変形できるように、位相的に同等として互いにの形に滑らかに変形できる、そういった状態を分類しました。
この分類から、WTe2が、彼等が非共型トポロジカル金属と命名した新しいクラスの金属に属することを見つけ出しました。こういった金属は、以前から研究されているノンシンモルフィック金属に比べ、電子数が異なるという性質を持っています。
nonsymmorphic topological metal = 非共型トポロジカル金属
ノンシンモルフィックトポロジカル金属では、current-carrying electron(導電電子)は相対論的粒子のように振る舞います。すなわち、粒子がほぼ光速で移動しているということです。この性質は、通常メタルほど、不純物や欠陥の影響を受けやすくないので、それらを電子デバイス用の魅力的な候補にしています。
理論位相分類
abstract topological classification (理論的位相的分類)は、研究者が、バルクWTe2が持つ、そのうち最も重要なのが、それが同数のホールと電子を持っている事を意味しているそれの完璧な補償である、いくつかの卓越した電子特性のための、いくつかの説明を提言することも同時に可能にしてくれています。理論的シミュレーションを通して、研究者達は、この性質が、WTe2単層の3次元結晶積層で実現可能かもしれないことを発見していて、この事は、驚くべき結果だったとミュヒラー氏は言った。
abstract topological classification = 理論的トポロジカル分類
”通常、理論研究においては、予想外のことはほとんどないのですが、この想定外のことが、いきなり飛び出してきて驚きました。”と、彼は言った。”この理論的分類が我々がこの性質を説明することを直接的に可能にしてくれています。そういった意味では、それは、この化合物を調べるには非常に洗練された方法で、現在、似たような性質を持つ新しい化合物を理解したり設計したりすることが実際に可能です。”
最新の光電子分光実験が、WTe2中の電子が、right-handed photons (右巻き光子)をleft-handed photons (左巻き光子)と比べ、異なって吸収することも明らかにしています。研究者達によって系統立てられた理論が、こういったWTe2に対して行われるphotoemission experiments(光電子放出実験)が、この新しいクラスの金属のトポロジカル特性に基づてい理解することが可能な事を示しています。
将来の研究において、理論物理学者達は、こういった位相的性質が、この種の金属の電子デバイスを作るために大型結晶から剥離することができる、原子層にも存在しているのかどうかをテストしたいと思っています。”この現象の研究は、電子産業に対して大きな意義を持っていますが、まだ初期段階に過ぎません。”
ノンシンモルフィックトポロジカル金属、または、非共型トポロジカル金属という全く新しい金属が偶然見つかったみたいです。ディラック・ワイル半金属とは違うみたいで、研究が始まったばかりなので何とも言えませんが、期待は持てそうです。