電子回路は、スマートフォンから宇宙探査機に至る、ほぼあらゆる物に含まれ、単純加算から惑星間衛星の軌道計算に至る、多種多様な計算問題に利用可能です。カルテックの生物工学助教授ルル・チェン氏率いる研究グループは、通常のシリコン半導体ではなく、DNAのストランド(らせん構造)を使って電子回路を作り出すための研究をしています。
チェン氏のグループは、シーソコンパイラーと呼ばれる、彼等が開発したソフトウェア・ツールを使った、学部生を含む新米研究者でさえも利用が簡単な、DNA回路の技術を作り出しています。現在彼等は、そのツールが、チェン氏と同僚等によって考案された、システマティックウェットラボ処置に続いて、未精製DNAからその後構築可能なDNA回路を手早く設計するのに利用できることを実験的に証明しています。今回の研究を詳述している研究論文が、2月23日に刊行されるNature Communications誌にて掲載されています。
ヌクレオチド
Computing with biochemical circuits made easy
Although DNA is best known as the molecule that encodes the genetic information of living things, they are also useful chemical building blocks. This is because the smaller molecules that make up a strand of DNA, called nucleotides, bind together only with very specific rules—an A nucleotide binds to a T, and a C nucleotide binds to a G. A strand of DNA is a sequence of nucleotides and can become a double strand if it binds with a sequence of complementary nucleotides.
DNAは、生物の遺伝情報をエンコードしている分子として有名ですが、それらは、有用な化学物質の基礎的要素にもなっています。これは、ヌクレオチドと呼ばれる、DNA鎖を構築している小分子が、AヌクレオチドがTヌクレオチドに結合し、CヌクレオチドがGヌクレオチドに結合するといった、非常に明確なルールよってのみ結合しているためです。DNA鎖は、ヌクレオチド配列のことで、もしそれが相補的ヌクレオチド配列と結合すれば、二重鎖になります。
DNA回路
DNA回路は、生物化学環境範囲内での情報収集、局所的情報処理、各分子の挙動制御に長けています。シリコントランジスタの代わりにDNA鎖から作られる回路は、電子回路とは全く異なる方法で使われています。”DNA回路は、化学物質、医薬品、材料に、それらの環境変化に応じてそれらを機能させることで、スマートさを付け加えることができます。”と、チェン氏は言っています。”重要なのは、こういった適応機能が人によってプログラム可能な事です。”
To build a DNA circuit that can, for example, compute the square root of a number between 0 and 16, researchers first have to carefully design a mixture of single and partially double-stranded DNA that can chemically recognize a set of DNA strands whose concentrations represent the value of the original number. Mixing these together triggers a cascade of zipping and unzipping reactions, each reaction releasing a specific DNA strand upon binding. Once the reactions are complete, the identities of the resulting DNA strands reveal the answer to the problem.
例えば、0~16の数字の平方根を計算できるDNA回路を構築するために、研究者達は、その濃度がオリジナル数値を表しているDNA鎖の組み合わせを化学的に認識できる、単鎖DNAと部分的二重鎖DNAの混合物を、最初に注意深くデザインする必要があります。これらを混ぜ合わせることが、重合・解重合反応の連鎖をトリガーし、各々の反応が、結合に基づいた特定のDNA鎖を放出します。いったん反応が完了するとすぐに、結果として生じたDAN鎖のアイデンティティが問題に対する答えを明らかにしてくれます。
double-stranded DNA = 2本鎖DNA、single-stranded DNA = 1本鎖DNA
シーソー・コンパイラー
シーソー・コンパイラーを使えば、研究者達は、コンピュータに、計算に要求される関数を教えることができ、コンピュータは、DNA配列と必要な混合物を設計します。しかし、こういった自動的に設計されたDAN配列と混合物が、新しい、例えば、細胞が隣接する細胞を感知する事で、どう進化するかを決定する規則を計算するといった関数を持ったDNA回路を構築するために、どれくらい上手く機能するのかは全くの未知数です。
”DNA製回路を構築することは、今までのところ、この研究分野に無関係な人達にとって、新しい関数を持った全ての回路が、新しい配列を持ったDNA鎖を必要とし、かといって、購入できる市販のDNA回路が存在しないので、かなり難しいものになっています。”と、計算・数理科学の上級ポスドク研究員で、本研究論文の第二著者クリス・サチャック氏は語ります。”我々の回路設計ソフトウェアは、研究者達が、実行したり計算したい事をただ打ち込むだけで、ソフトウェアに、試験管内でのDNA回路の挙動を予測するためのシミュレーションに加えて、計算を実行するのに必要な全てのDNA鎖を見つけ出させる事を可能にする初めの一歩です。こういったDNA鎖は、容易に入手可能ではないのですが、我々は、現在、それらが、ユーザーがデザインした関数を持った新しい回路に対して、上手く機能することを証明しています。”
”1950年代、電子回路の初期バージョンを構築して、それらの機能をコントロールできた、トランジスタの物理学を理解していた研究ラボはほんのわずかしか存在しませんでしたが、今現在は、スマートマシンに組み込まれた複雑な電子回路を設計するための、簡単で人に優しい言語を使っている多くのソフトウェア・ツールが利用可能です。我々のソフトウェアは、そのようなもので、単純で負担が少ない計算記述を、複雑なDNA回路のデザインに変換します。”
The Seesaw Compiler was put to the test in 2015 in a unique course at Caltech, taught by Qian and called “Design and Construction of Programmable Molecular Systems” (BE/CS 196 ab). “How do you evaluate the accessibility of a new technology? You give the technology to someone who is intellectually capable but has minimal prior background,” Qian says.
シーソーコンパイラーは、2015年に、チェン氏によって教えられ、”プログラマブル分子システムの設計・構築”と呼ばれた、カルテックの独自コースでテストされました。”新しいテクノロジーの近づきやすさをどのようにして評価しますか?その技術を、知的能力はあっても最小限の事前の予備知識しか持たない誰かに与えます。”と、チェン氏は語っています。
このコースを受講した学生たちは、コンピュータサイエンスと生物工学専攻の、学部生や大学院一年生達で、シーソーコンパイラーを使ってDNA回路をデザインすることが、誰にとっても簡単であることがすぐに分かりました。しかし、ウェットラボで設計された回路を構築することは、そんなに簡単なことではありませんでした。従って、クラス後の継続した取り組みにより、グループは、DNA回路構築プロセスを通して、学部生のような素人同等の研究者達をガイド可能な系統だったウェットラボ手順を開発することに着手しました。幸運にも、研究者たちは、彼等が遭遇したあらゆるチャレンジに対する一般解を発見できたので、現在は、自分が設計したDNA回路を構築することは、誰にとっても簡単なものになっています。
安価な未精製DNA鎖を使用可
グループは、新しいプロセスで使っているこういった回路に、安価な未精製DNA鎖を使うことが可能であることを証明しています。この事は、系統的ウェットラボ手順の段階毎に、DNA鎖の合成品質を補償するように設計されているという理由のみで可能になっています。
”我々は、この研究が、より多くの他分野のコンピュータ科学者と研究者に、段々とパワフルになってきている分子マシンを開発している我々のコミュニティーに参加して、分子コンピューターの発明よって、約束されている技術変革を最終的にもたらす、もっと幅広い分野のアプリケーションを探求することを確信させてくれるだろうと期待しています。”
本研究論文のタイトルは、”Compiler-aided systematic construction of large-scale DNA strand displacement circuits using unpurified components.“となっています。
ほとんどのDNA strand displacement circuit(DNA鎖置換回路)は、purified DNA strand(精製DNA鎖)か、購入後in-house polyacrylamide gel electrophoresis (PAGE) purification (インハウス・ポリアクリルアミドゲル電気泳動精製)が必要な未精製DNA鎖を使っていて、精製されたDNA鎖は、未精製DNA鎖の10倍の値段で、安価な未精製DNAは自分で精製する手間と労力が半端じゃないみたいです。今回のDNA回路は安価な未精製DNA鎖をそのまま使えるので、経済的なだけではなく、精製のための手間と労力も省けるので、革命的ではないでしょうか。