人工酵素(人工金属酵素)の開発に成功!

最近は人工なんちゃらが流行りのようで、人工知能、人工太陽、人工細菌、人工光合成、人工シナプス、人工ニューロン、人工分子、人工原子、人工膵臓、そして人工酵素と、空前の人工何ちゃらブームになっています。人工金属酵素は、細胞内で、自然の酵素のように触媒反応を引き起こすことが可能なようです。人工酵素を使う事で、今までには考えられなかった事が可能になるようなので、さまざまな分野での応用が期待されているようです。

biot-Ru-SAV

Bringing artificial enzymes closer to nature

The artificial metalloenzyme, termed biot-Ru-SAV, was created using the biotin-streptavidin technology. This method relies on the high affinity of the protein streptavidin for the vitamin biotin, where compounds bound to biotin can be introduced into the protein to generate artificial enzymes. In this study the authors introduced an organometallic compound, with the metal ruthenium at its base.

「biot-Ru-SAVと命名されたその人工金属酵素は、ビオチン-ストレプトアビジン技術を利用して作られました。この方法は、ビオチンに結合している化合物を、人工酵素を作り出すためにタンパク質内へ取り込む場合に、ビタミンビオチンに対するタンパク質ストレプトアビジンの高親和性に依存しています。今回の研究の中で、著者たちは、それの主成分に金属ルテニウムを用いた有機金属化合物を導入しました。」

biot-Ru-SAVとはこれまた随分とややこしい名前を付けたもんです。もっと言いやすい名前にすればいいのになぁ、と思うのは私だけでしょうか。

Organometallic compounds are molecules containing at least one bond between a metal and a carbon atom, and are often used as catalysts in industrial chemical reactions. However, organometallic catalysts perform poorly, if at all, in aqueous solutions or cellular-like environments, and need to be incorporated into protein scaffolds like streptavidin to overcome these limitations.

「有機金属化合物は、金属原子と炭素原子の間に少なくとも1個の結合を含み、工業的な化学反応分野で触媒として頻繁に使われています。しかし、有機金属化合物触媒は、水溶液や細胞のような環境では、仮に触媒反応を起こせても、非常に低性能で、こういった制限を克服するために、ストレプトアビジンのような足場タンパク質に組み込まれる必要があります。」

有機金属化合物触媒は細胞内のような液質環境ではほとんど触媒として使い物にならないらしく、それ故に、ストレプトアビジンのようなタンパク質の足場が必要になるようです。足場タンパク質とは何なのか調べてみました。足場タンパク質

複数のタンパク質に同時に結合する事により、それらのタンパク質の細胞内局在や、シグナル伝達の効率を変化させるタンパク質を指す。多くの場合PDZドメインやSH3ドメインといった、タンパク質結合ドメインを持つ一方、それ自身には酵素活性は無い事が多い。

オレフィンメタセシス

“The goal was to create an artificial metalloenzyme that can catalyse olefin metathesis, a reaction mechanism that is not present among natural enzymes,”

「我々の研究ゴールは、天然酵素の間では存在しない反応機構である、オレフィンメタセシスを触媒する事ができる、人工金属酵素を作り出すことでした。」

オレフィンメタセシス(オレフィン複分解)とは?オレフィンメタセシス反応

1つのオレフィン (→エチレン系炭化水素 ) が異なる2種のオレフィンに転化される反応で,オレフィンの不均化反応とも呼ばれる。オレフィンとアルカン (→メタン系炭化水素 ) から高オクタン価ガソリンをつくる反応を研究中に見出された。

メタセシスという言葉も気になったので調べてみました。オレフィンメタセシス

メタセシスという聞き慣れない言葉の語源は,ギリシャ語のmetatithenaiに由来し,本来「位置を交換する」という意味をもつ。言語学では,「音位転換(転位)」と訳され,文字通り音の位置が逆転することをいう。子供がよく口にする「エベレーター」は,「エレベーター」のメタセシスである。化学でいう「メタセシス」は,2つの化学結合間で結合の組み替えが起こる反応のことをいう。N.カルデロン(Nissim Calderon)らが1967年に名づけた「オレフィンメタセシス」は,二種類のオレフィン間での炭素-炭素二重結合の組み替え反応である。

オレフィンメタセシスは可逆性の反応なようです。

オレフィンメタセシスを理解する上で大事なことは,それが平衡反応であることである。反応が2回起これば原料系に戻る。望みの生成物を得るためには工夫が必要になるが,一方で,強固な二重結合を可逆的にたやすく組み替えられることがこの反応の大きな魅力にもなっている。

可逆反応がオレフィンメタセシスの魅力になっているらしいです。

ペリプラズム

However, the environment inside a living cell is far from ideal for the proper functioning of organometallic-based enzymes. “The main breakthrough was the idea to use the periplasm of Escherichia coli as a reaction compartment, whose environment is much better suited for an olefin metathesis catalyst,”

「しかし、生体細胞内部の環境は、有機金属系酵素の正常な機能のためには決して理想ではありません。”主要な打開策は、環境がオレフィンメタセシス触媒にはるかに良く適している大腸菌のペリプラズムを反応層として使うというアイデアでした。”」

The periplasm, the space between the inner cytoplasmic membrane and the bacterial outer membrane in gram-negative bacteria, contains low concentrations of metalloenzymes inhibitors, such as glutathione.

「グラム陰性菌における、細胞内幕と細菌外膜の間の空間であるペリプラズムは、グルタチオンなどの金属酵素阻害物質を低濃度含んでいます。」

ペリプラズムは金属酵素阻害因子をそんなに含んでいないので、オレフィンメタセシス触媒には好環境なようです。大腸菌の使い道が色々ある事に驚かされる今日この頃です。

細胞分子工場

Having found ideal in vivo conditions, the authors went a step forward and decided to optimize biot-Ru-SAV by applying principles of directed evolution, a method that mimics the process of natural selection to evolve proteins with enhanced properties or activities. “We could then develop a simple and robust screening method that allowed us to test thousands of biot-Ru-SAV mutants and identify the most active variant,”

「理想的な生体内条件を発見したことで、著者たちは一歩前進し、機能強化された特性、あるいは働きを使って、タンパク質を進化させるために自然淘汰の工程を模倣している手法である進化分子工学の原理を応用する事でbiot-Ru-SAVを最適化する事を決めました。”我々は、それから、何千ものbiot-Ru-SAV変種をテストして最も活発な変異株を特定する事を我々に可能にした、単純かつ強固な選別法を開発しました。”」

Not only could the authors markedly improve the catalytic properties of biot-Ru-SAV, but they could also show that organometallic-based enzymes can be engineered and optimized for different substrates, thus producing a variety of different chemical products. “The exciting thing about this is that artificial metalloenzymes like biot-Ru-SAV can be used to produce novel high added-value chemicals,” Ward says. “It has a lot of potential to combine both chemical and biological tools to ultimately utilize cells as molecular factories.”

「著書達は、biot-Ru-SAVの触媒特性を著しく向上できただけではなく、有機金属系触媒がさまざまな基質に対して操作・最適化される事が可能で、従って、バラエティ豊かな化学製品を生産できる事を証明しています。”これがワクワクするのは、biot-Ru-SAVのような人工金属酵素が、今までにない高付加価値のある化学物質を作り出すために使われる事ができるということです。”とワードは言った。”最終的に細胞を分子の工場として利用するために、化学的・生物学的手段の両方を組み合わせるためのかなりのポテンシャルを持っています。”」

人工酵素が、全く新しい化学物質を作るために、細胞を分子の工場にする事ができるらしいので、将来が楽しみな技術である事は確かなようです。遺伝子組み換え大腸菌、遺伝子書き換え大腸菌など、大腸菌を人工分子製造工場にするという発想が面白いと言えます。