原子分解能電子断層撮影:結晶のない3次元構造

材料特性と材料機能を最も基本的なレベルで理解するには、高精度で原子の3次元配置を知らなければなりません。結晶性物質のために、X線結晶学は約100年前のマックス・フォン・ラウエ、ウィリアム・ヘンリー・ブラッグ、ウィリアム・ローレンス・ブラッグの先駆的研究以来、この情報を提供しています。しかし、完全結晶は自然界では稀です。実際の材料はしばしば、材料特性と性能に強い影響を与える、欠陥、表面再構成、ナノスケール不均質、不規則性を含んでいます。結晶学とは完全に異なるアプローチが、結晶の欠陥と非晶質系の3次元原子配列を測定するのに必要とされています。

粒子クライオ電子顕微鏡

Atomic electron tomography: 3D structures without crystals

Although single-particle cryo–electron microscopy (cryo-EM) has been under rapid development for 3D structure determination of macromolecules with identical or similar conformations at near-atomic resolution, this method cannot be generally applied to the physical sciences for the following three reasons. First, most materials do not have identical copies and cannot be averaged to achieve atomic resolution.

粒子クライオ電子顕微鏡は、ほぼ原子レベル分解能で全く同一かよく似た立体構造を持つ分子の3次元構造測定のために急ピッチで開発されていますが、この方法は以下の3つの理由で、一様に物理科学に適用されることはできません。1つは、ほとんどの材料が同一の複製物は有してはいないのと原子分解能を達成するために平均化され得ません。」

天然素材は、不均一・不規則で欠陥を抱えている物がほとんどなので、平準化できないらしいです。全く同一の物が存在しないのは自然の摂理です。

ペプチド配列と立体化学

Second, a priori knowledge of the peptide sequence and stereochemistry in protein molecules greatly facilitates their 3D atomic structure determination, but this knowledge is not applicable to physical science samples.

「第二に、たんぱく質分子におけるペプチド配列と立体化学の演繹的知識は、それらの3次元原子構造測定をかなり容易にしますが、この知識は自然科学試料には適用できません。」

立体化学はwikiによると

分子の3次元的な構造のこと、あるいはそれを明らかにするための方法論や、それに由来する物性論などを含めた学問領域をいう。

化学物質の立体的な構造は、その物性に極めて大きな影響を及ぼす。したがって、立体化学は化学のなかでも最も基本的かつ重要な項目である。基本的な分野であるため、講義科目や教科書名で多用される用語である。

回折と位相差

Third, unlike in biological specimens, the presence of diffraction and phase contrast in the transmission electron microscopy images of most materials poses a challenge for tomographic reconstruction.These difficulties have made the objective of solving the 3D atomic structure of crystal defects and noncrystalline systems a major challenge for structural characterization in the physical sciences.

「3つめは、生物学的な標本とは違い、ほとんどの材料の透過電子顕微鏡画像における回折と位相差の存在は、トモグラフィー再構成に課題をもたらします。これらの問題は、結晶の欠陥と非晶質系の3次元原子構造を解くための目標を、自然科学分野での構造的性質にとっての大きな挑戦にしています。」

回折の意味を調べてみました。回折現象の原因

画質に変化をもたらす原因のひとつとして、「回折現象」があります。回折現象とは、光や音などの波動が進むとき、障害物に遮られるとその背後に回り込む現象のことです。例えば、声が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
写真撮影においては、絞りの背後に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなるため、解像力の低下したねむい画質になってしまいます。この現象は、絞りの径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

位相差観察の意味を調べました。位相差観察について

明視野観察では無色透明な標本(生体細胞や細菌など)に対して染色して組織の細部を観察しますが、この際、生体細胞などは変質、死滅してしまうため、細胞分裂や生きたままの姿を観察することはできません。
これに対して位相差観察は、光の回折、干渉という2つの性質を利用し、明暗のコントラストにより無色透明な標本を可視化するという観察方法です。この際、標本に染色を行う必要はないので細胞分裂や生きたままの姿を観察することができます。
従って、現在では生体組織の観察手段として欠かせないものとなっています。

位相差観察は、位相差を明暗差に変える観察のことのようです。位相差は位相のずれのことなので位相の意味をwikiで調べてみました。

波動などの周期的な現象において、ひとつの周期中の位置を示す無次元量で、通常は角度(単位は「度」または「ラジアン」)で表される。

たとえば、時間領域における正弦波を

y(t) = A sin(ωt + α)

とすると、(ωt + α) のことを位相と言う。特に t = 0 における位相 α は初期位相と呼ばれる。あるいは単に、この正弦波の位相は α であるということも多い。いずれの定義を採用するにしても、上記の式のA: 振幅、ω: 角周波数、α: 位相の3つのパラメータにより、正弦波は完全に記述される。

次に位相差(位相のずれ)を調べます。位相のずれ

生体試料はほとんど透明であっても,中にはいろいろなものが入っていますので,屈折率が周りの水より若干高いのです,つまり,光の進む速度が若干遅くなるのです.その結果,生体試料通過後の光は周囲の光より若干位相が遅れるのです

ということみたいです。

原子分解能電子断層撮影

Major developments in aberration-corrected electron microscopes, advanced detectors, data acquisition methods, powerful 3D image reconstruction, and atom-tracing algorithms have placed one method—atomic electron tomography (AET)—on the cusp of this breakthrough. In recent years, AET has been used to image the 3D structure of grain boundaries and stacking faults and the 3D core structure of edge and screw dislocations at atomic resolution. This technique has also revealed the existence of atomic steps at 3D twin boundaries that are hidden in conventional 2D projections.

「収差補正走査透過型電子顕微鏡、高度な検出器、データ収集法、強力な3次元画像再構成、原子追跡アルゴリズムの大きな進展は、1つの方法、原子分解能電子断層撮影(AET)をこの飛躍的進歩の先端に置いています。ここ数年、原子分解能電子トモグラフィーは原子分解能で粒界の3次元構造、積層欠陥、刃状・らせん転位の3次元コア構造を撮像するのに使われてきています。このテクニックはまた、従来の2次元投影図の中に隠されている3次元双晶境界での原子ステップの存在を明らかにしています。」

Furthermore, the combination of AET and atom-tracing algorithms has enabled the determination of the coordinates of individual atoms and point defects in materials with a 3D precision of ~19 pm, allowing direct measurements of 3D atomic displacements and the full strain tensor. Finally, the single-particle reconstruction method developed in cryo-EM has been applied for 3D structure determination of small (≤2-nm) gold nanoparticles and heterogeneous platinum nanocrystals at atomic-scale resolution.

「さらに、AETと原子追跡アルゴリズムの組み合わせは、19ピコメートルまでの3次元精度で材料における個々の原子の座標と点欠陥の測定を可能にし、3次元原子転位と全ひずみテンソルの測定を可能にしています。最後に、クライオ電子顕微鏡で開発されたその単粒子再構成法は、原子分解能で、小粒(2ナノメートル以下)の金ナノ粒子と不均一系白金ナノ結晶の3次元測定に利用されています。」

atom-tracingはray tracing(光線追跡)のような訳でOKです。

The future research frontiers of AET involve increasing the sample complexity (including real materials with different atomic species and disordered systems), image contrast (determining the 3D atomic positions of both heavy and light elements), detection sensitivity (revealing individual atoms at surfaces and interfaces), and data acquisition speed (probing the dynamics of individual atoms and defects). The ability to precisely determine all atomic coordinates and species in real materials without assuming crystallinity will transform our understanding of structure-property relationships at the most fundamental level.

「AETの将来の研究最前線には、試料の複雑さ(異なる原子種と無秩序系を持った実材料を含む)、画像コントラスト(重元素と軽元素両方の3次元原子配置を決定する)、検出感度(表面と接触面で個々の原子を明らかにする)、データ収集速度(個々の原子と欠陥の力学を調査する)を増やすことを含みます。結晶化度を仮定することなしに実材料において、全ての原子座標と原子種を正確に決定する能力は、最も基本的なレベルで、構造性質関係についての我々の理解を変えるでしょう。」

For instance, using atomic coordinates as inputs to first-principles calculations, it is possible to compute the effect on the material properties of each defect and atomic reorganization, giving precious clues about how to modify and engineer materials at the atomic level to yield better performance in a device. Catalysis involves atoms interacting on nanoparticle surfaces in poorly understood ways, and the mechanisms of particle growth in synthesis reactors or in devices under load are largely unknown. Breakthroughs in our ability to reliably measure this information in 3D will have effects across disciplines from electronics and catalysis to energy conversion.

「例えば、原子座標を第一原理計算のためのインプットとして使えば、めいめいの欠陥と原子の再編成の材料特性への影響を計算することが可能になり、デバイスがより優れた性能を引き出すために原子レベルで材料を修正・改良するための方法についての貴重な手掛かりを与えてくれます。触媒作用は、不明なところが多い方法で、原子がナノ粒子表面で相互に影響し合うことによって発生し、合成反応装置または負荷を受けているデバイスにおける粒子成長のメカニズムはほとんど知られていません。3次元でこの情報を確実に測定するための我々の能力の飛躍的前進は、電子と触媒反応からエネルギー変換までの研究分野にわたって影響を持つはずです。」

AET(原子分解能電子トポグラフィー)周りの技術革新が進めば、原子レベルでの材料改良の精度を向上させたり、触媒作用の解明等に役立つようになるみたいです。