過去数年に渡り、物理学者達は、量子系の動作を高速化する量子ショートカットを開発しています。驚くべきことに、こういったショートカットのいくつかは、理論的に、熱力学の第2法則の明らかな違反である、余分なエネルギーを一切使うことなく、システムをほぼ瞬間的に動作させることが可能なように見えます。物理学者は、何かが間違っている事は分かっているのですが、今までのところは、この状況に対する打開策は見つかっていませんでした。
量子ショートカット
Quantum shortcuts cannot bypass the laws of thermodynamics
Now in a new study, physicists have shown that quantum shortcuts are subject to a trade-off between speed and cost, so that the faster a quantum system evolves, the higher the energetic cost of implementing the shortcut. In accordance with the laws of thermodynamics, an infinitely fast speed would be impossible since it would require an infinite amount of energy.
現在、新しい研究の中で、物理学者たちは、量子ショートカットが、量子系が高速化すればするほど、ショートカットを実装するためのエネルギー的なコストがどんどん高くなっていくために、スピード・コスト間の交換を免れないことを証明しています。熱力学の法則に基づくなら、無限の速度は、それが無限のエネルギー量を必要とするので実現不可能になります。
物理学者達、イギリスのクィーンズ大学ベルファストとイタリアのミラノ大学のスティーブ・キャンベル氏は、アメリカのボルチモア郡にあるメリーランド大学のセバスチャン・デフナー氏と共に、Physical Review Letters誌最新号に、量子ショートカットにおけるコストとスピードの間のトレードオフに関する研究論文を発表しています。
断熱状態へのショートカット
“Some recently proposed methods to control quantum systems, called shortcuts to adiabaticity (STA), appear to be energetically for free, and even more concerning there was nothing to say they couldn’t be achieved in vanishingly small times,” Campbell told Phys.org. “That something wasn’t quite right led us to more explicitly consider what happens when these techniques are applied.”
”断熱性へのショートカット(STA)と呼ばれている、量子系を制御するために最近提唱された手法の一部は、エネルギー的にコストフリーなように見受けられ、それらが瞬時には達成され得ないと言っていない事がさらに気がかりです。”と、キャンベル氏はPhys.orgに対して話しています。”何かがおかしかった事が、我々に、こういったテクニックが適用された場合、一体何が起こるのかを、もっと明確に考察するように仕向けいています。”
何か腑に落ちない点があったので、こういったテクの有効性を検討するに至ったみたいです。
ハイゼンベルクの不確定性原理
To do this, the scientists applied the quantum speed limit—a fundamental upper bound on the speed at which a quantum system can operate, which arises due to the Heisenberg uncertainty principle. Since the quantum speed limit is a consequence of this fundamental principle, it must apply to all STAs, and so it should prohibit them from operating in arbitrarily short times.
この事を行うために、研究者達は、ハイゼンベルクの不確定性原理によって生じる、量子系が動作可能な速度の原理的上限の量子速度制限を適用しています。量子速度制限は、この基本原則の結果なので、全てのSTAに適用される必要があり、よって、その事が、全STAが、好き勝手に短時間で動作するのを禁止してくれるはずです。
”この量子速度制限を計算することで、我々は、STAを使って系をより高速化させる程、熱力学的コストが高くなることを明かにしています。”と、キャンベル氏は言いました。”さらに、瞬間的操作は、無限大のエネルギーが投入される必要があるので、不可能になっています。”
研究者達が説明しているように、今回の結果は特に驚くべきことでも何でもなく、答えを見つけ出すまでに、ただ単に時間がかかったというだけのことです。
”私は、この事は、例によって例の如き、’もし、何かが眉唾な話に思えたら、それは間違いなく眉唾な話です。’という事だと思っています。”と、デフナー氏は言いました。”恐らく、コストを定量化する必要があるという事は、コミュニティーの総意だったのではないでしょうか。私達が、ただ単に、そのことを初めてうまく解決できたというだけのことです。”
ランダウ・ツェナー模型
To demonstrate the usefulness of this trade-off, the physicists applied it to two practical systems. The first is harmonic oscillators, which have a wide range of uses, including in tests of quantum thermodynamics. The second is the Landau-Zener model, which has applications in adiabatic quantum computing, as used in the D-Wave machine.
このトレードオフの有用性を実証するために、物理学者たちは、それを2つの実用系に適用しました。1つは、量子熱力学のテスト用などに幅広く利用されている調和振動子です。もう1つは、D-Waveマシンに使われているような、断熱量子計算分野におけるアプリケーションを持っているランダウ・ツェナー模型(ランダウ・ツェーナー模型)です。
両方のモデルで、そのトレードオフは、STAによって与えられる、こうした系の究極的加速に実用制限を課しています。研究者達は、こういった制限が、将来的に、この種や他の量子系のデザインと実装に指針を与えてくれることを期待しています。
”我々は、今まで開発されている他のSTA用テクニックも検証して、似たようなトレードオフを見つけることができるかどうかを確かめたいと思っています。別の重要なルートが、我々の研究を、ディラック材料や非線形系等の非標準な量子力学に対して、一般化することです”と、デフナー氏は言いました。