蚕の餌と言えば、mulberry leaf(桑の葉)ですが、蚕にグラフェンとカーボンナノチューブを食べさせて超強力なシルクを作れる可能性があるようです。将来的に、カーボンナノチューブシルクやグラフェンシルクが色々な物に組み込まれるようになるんでしょうか。絹と聞くと何故か、田中絹代を思い出すのは私だけでしょうか。カイコと聞くとあゝ野麦峠を思い出してしまうし、困ったもんです。おっさんは。
カーボン強化シルク
Silkworms that eat carbon nanotubes and graphene spin tougher silk
Strong, conductive carbon-reinforced silk could be suitable for wearable electronics, biodegradable sensors, and medical implants
「丈夫で導電性のカーボンで増強されたシルクが、ウェアラブルエレクトロニクス、生体分解可能センサー、医療移植片に適している可能性があります。」
Silk—the stuff of lustrous, glamorous clothing—is very strong. Researchers now report a clever way to make the gossamer threads even stronger and tougher: by feeding silkworms graphene or single-walled carbon nanotubes (Nano Lett. 2016, DOI: 10.1021/acs.nanolett.6b03597). The reinforced silk produced by the silkworms could be used in applications such as durable protective fabrics, biodegradable medical implants, and ecofriendly wearable electronics, they say.
「光沢のある華やかな衣料品の材料であるシルクはとても丈夫です。研究者は現在、その極めて軽くて柔らかで繊細な糸を、蚕にグラフェンか単一壁カーボンナノチューブを給餌することによってさらに頑丈で強靭にする賢い方法を報告しています。その蚕によって作られた強化生糸は耐久性のある保護用繊維、生体分解性医療用インプラント、環境に優しいウェアラブルエレクトロニクス等の用途で利用できるかもしれないらしいです。」
蚕にカーボンナノチューブやグラフェンを食べさせることが環境に優しいのかという話は置いておくとして、蚕に害がないのなら問題ないのかもしれません。その炭素強化絹は食品には添加できないことは言うまでもありません。シルク入りのお菓子が最近注目を浴びていて、恐らく群馬県にある富岡製糸場が世界遺産に登録された事と関連しているかもしれません。ちなみに女工哀史 野麦峠の製糸場は長野県の岡谷にありました。
強化シルク製法
Researchers have previously added dyes, antimicrobial agents, conductive polymers, and nanoparticles to silk—either by treating spun silk with the additives or, in some cases, by directly feeding the additives to silkworms. Silkworms, the larvae of mulberry-eating silk moths, spin their threads from a solution of silk protein produced in their salivary glands.
「研究者は過去に、染料、抗菌剤、導電性ポリマー、ナノ粒子を、絹紡糸をその添加剤で処理することで、または場合によっては、直接その添加剤を蚕に給餌することで、生糸に加えてきています。桑を餌にしているカイコ蛾の幼虫の蚕は、唾液腺で作られる絹タンパク質溶液から糸を紡いでいます。」
To make carbon-reinforced silk, Yingying Zhang and her colleagues at Tsinghua University fed the worms mulberry leaves sprayed with aqueous solutions containing 0.2% by weight of either carbon nanotubes or graphene and then collected the silk after the worms spun their cocoons, as is done in standard silk production. Treating already spun silk would require dissolving the nanomaterials in toxic chemical solvents and applying those to the silk, so the feeding method is simpler and more environmentally friendly.
「炭素強化絹を作るために、精華大学でチャンと彼女の同僚達は、そのワームに、カーボンナノチューブかグラフェンどちらかを0.2重量%含有する水溶液で噴霧された桑の葉を与え、その後、標準的な絹生産で行われているように、ワーム達が繭を紡いだ後で、そのシルクを集めました。既に紡がれた生糸の処理には有毒化学溶剤でナノ材料を溶かし、それらをシルクに塗布する必要があるので、給餌方法は簡単でより環境に優しいのです。」
蚕の不思議
Some questions remain. One is exactly how the silkworms incorporate the nanomaterials in their silk. Another is what percentage of the nanomaterials eaten by the worms make it into the silk instead of being excreted or otherwise metabolized. The carbon materials are not visible in the cross sections of the silk threads, perhaps because the nanoparticle content is low, Zhang says. Answering these questions might be a task for biologists, she adds.
「いくつかの疑問が残っています。一つは、一体どうやってカイコはナノ材料をシルクに組み入れているのかということです。もう一つはは、カイコによって食べられたナノ材料の何%が排泄かそうでなければ代謝される代わりに絹までこぎつけるのかという疑問です。炭素材料が蚕糸の断面に見られないのは、もしかすると、ナノ粒子含有量が低いからかもしれません。とチャンは言っています。これらの疑問に答えることは生物学者の課題であるかもしれませんと彼女は付け加えています。」
Polymer chemist Qing Shen at Donghua University reported similar work in 2014 using 30-nm-wide multiwalled carbon nanotubes, which also increased the silk fibers’ strength and toughness (Mater. Sci. Eng., C 2014, DOI: 10.1016/j.msec.2013.09.041). Zhang says that the smaller, 1- to 2-nm-wide single-walled nanotubes her team uses “are more suitable for incorporation into the crystalline structures of silk protein.”
「東華大学の高分子化学者シェンは2014年に、やはりシルク繊維の強度と強靭性を高めている30nm幅の多層カーボンナノチューブを使った似たような研究を報告しています。チャンは彼女のチームが使っている1~2ナノメートル幅の単層カーボンナノチューブが、絹蛋白質の結晶構造への取り込みにより適しています。」
以前の研究をさらに向上させただけのものみたいです。
シルクセンサー
This work provides an “easy way to produce high-strength silk fibers on a large scale,” says materials scientist Yaopeng Zhang of Donghua University, who has fed titanium dioxide nanoparticles to silkworms to create superstrong silk resistant to ultraviolet degradation. The electrical conductivity of the carbon-reinforced silk might make it suitable for sensors embedded in smart textiles and to read nerve signals, he says.
「この研究は、”大規模に高強度の絹繊維を生産するための簡単な方法を提供しています”と紫外線劣化に耐性がある超強力シルクを作り出すために、蚕に二酸化チタンナノ粒子を食べさせた東華大学の材料科学者チャンは言っています。カーボン強化生糸の電気伝導率は、それをスマート繊維製品に組み込んで神経信号を読み取るためのセンサーにふさわしくしてくれるかもしれませんと彼は言っています。」
絹センサーは便利で実用性が高いかもしれません。洗濯機や乾燥機の試練に耐えられるのかという疑問も残りますが、実用化が期待されるところです。
昆虫に何かを食べさせて強力な材料を作り出すことは、遺伝子組み換えで、大腸菌とクラゲを組み合わせて、蛍光タンパク質を作り出すことに似ています。こういった研究は倫理的な問題があるんでしょうけど、面白い研究であることには変わりありません。今後もこういう賢い方法で優れた材料を作り出していって欲しいものです。
蚕の腸内で夢のような酵素が作られています。シルクロードと言われているほどシルクは人類とは切っても切れない関係にあり、日本の富国強兵も製糸業と紡績業(殖産興業)によって賄われていた事も決して忘れてはいけません。富岡製糸場の世界遺産登録にはそういった意味合いも含まれています。