超伝導量子デバイスを可能にする新しいスピン

Harvard John A. Paulson School of Engineering and Applied Sciences(ハーバード大学ジョン・A・ポールソン工学応用科学部)の研究者が、量子超伝導デバイスの基礎を築く可能性がある発見をしたそうです。彼等の大発見は、長年に渡る量子計算の主な課題であった、超伝導材料を通して量子情報を伝送する方法を見事に解決しています。スーパーコンピュータから食器洗い機まで、全ての電子機器は、荷電子の流れを制御することで機能していますが、電子は電荷以外にもっと多くの情報を持ち運ぶことができます。例えば、電子は軸上のジャイロスコープのようにスピンしています。

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電子スピン

A new spin on superconductivity

Harnessing electron spin is really exciting for quantum information processing because not only can an electron spin up or down — one or zero — but it can also spin any direction between the two poles. Because it follows the rules of quantum mechanics, an electron can occupy all of those positions at once. Imagine the power of a computer that could calculate all of those positions simultaneously.

「電子スピンの利用は、電子が上か下、0か1にスピンできるだけでなく、二極間をどの方向へもスピンできるので、量子情報処理にとって本当にエキサイティングです。量子力学のルールに従っているので、電子は同時にそれら全ての場所を占有可能です。その全ての場所を同時に計算できるコンピュータのパワーを想像してみて下さい。」

量子コンピュータは理論的には数兆の処理を瞬時にこなすことが可能らしいので、暗号解読や宇宙の謎を紐解いたり、新たな分子の設計、遺伝子情報解読に威力を発揮すると言われています。人工知能にも使えるらしいので、従来型のスパコンと組み合わせれば、人間など比較にならない人工頭脳が完成するみたいです。

A whole field of applied physics, called spintronics, focuses on how to harness and measure electron spin and build spin equivalents of electronic gates and circuits.

By using superconducting materials through which electrons can move without any loss of energy, physicists hope to build quantum devices that would require significantly less power.

But there’s a problem.

「応用物理の全分野が、スピントロニクスと呼ばれる、電子スピンの利用と測定法、電子ゲートと電子回路に相当するスピン構築法に重点を置いています。電子がエネルギーを失うことなしに移動できる超伝導材料を利用することで、物理学者は、超省エネ量子デバイスを作り上げることを期待していますが、問題が存在します。」

超伝導は冷却装置が必要で、維持費やその他の不便性を考えた場合、とても実用的とは言えません。超電導スーパーコンピュータが5年以内に完成するようですが、完成する頃には非超電導型のスーパーコンピューターと対して性能が変わらない状況になっているらしいので、超伝導スーパーコンピュータの存在意義が問われることになりそうです。5年以内に常温超伝導体が発見されるとは思わないので、その後も超伝導スーパーコンピューターの開発が続くのかどうかは、非常に微妙なところです。

According to a fundamental property of superconductivity, superconductors can’t transmit spin. Any electron pairs that pass through a superconductor will have the combined spin of zero.

In work published recently in Nature Physics, the Harvard researchers found a way to transmit spin information through superconducting materials.

「超電導の基本的な性質によると、超伝導体はスピン情報を伝えることができません。超電導体を通過する電子対はどれもゼロの合成スピンを持っています。最近Nature Physics誌に掲載された研究論文で、ハーバード研究員たちは、超電導材料を通してスピンを伝える方法を見つけ出したと報告しています。」

このサイト、超伝導研究の最前線、によると、BCS理論のクーパー対は運動量0、角運動量0、スピン0で内部自由度がない電子対と考えられているので、今回はスピン0に対するスピン回転対称性の破れを実現しているっぽいです。

“We now have a way to control the spin of the transmitted electrons in simple superconducting devices,” said Amir Yacoby, Professor of Physics and of Applied Physics at SEAS and senior author of the paper.

It’s easy to think of superconductors as particle super highways but a better analogy would be a super carpool lane as only paired electrons can move through a superconductor without resistance.

「”我々は今現在、単純な超電導デバイスにおいて、透過電子のスピンを制御する方法を獲得しています。”とSEASの物理学と応用物理学の教授で、今回の研究論文の第一著者でもあるAmir Yacobyは語りました。超電導体を粒子の高速道路と考えるのは簡単ですが、もっと最適な例えは、対になった電子だけが抵抗無しで超伝導体の中を移動できるということで、スーパーカープール用レーンでしょう。」

アメリカの高速道路は同乗者がいる車専用レーンがあって、1人で通勤する場合は通れないので、カープーリングを促進する役割を担っています。

クーパー対

These pairs are called Cooper Pairs and they interact in a very particular way. If the way they move in relation to each other (physicists call this momentum) is symmetric, then the pair’s spin has to be asymmetric — for example, one negative and one positive for a combined spin of zero. When they travel through a conventional superconductor, Cooper Pairs’ momentum has to be zero and their orbit perfectly symmetrical.

「これらのペアはクーパーペアと呼ばれ、とても特別な方法で互いに影響し合っています。もしその相互に関連して動く方法(物理学者はこれをモーメンタムと呼んでいます)が左右対称なら、そのペアのスピンは非対称でなければならず、例えば、合成スピンがゼロの負のスピンと正のスピンのようなものです。それらが従来型の超伝導体を通過する時、クーパー対の運動量は0で、軌道は完璧に左右対称である必要があります。」

クーパーペア(クーパー対)とは、6.超伝導状態

バーディーン、クーパー、シュリーファー(BCS)の三人は
1)フェルミ粒子である
電子が格子振動を媒介として電子対を形成する。この電子対をクーパー対と呼ぶ。
2)クーパー対はボーズ粒子としてふるまい、低温では1つの電子対状態にボーズ凝縮し超伝導状態となる。

として初めて超伝導を量子力学レベルで説明できるモデルを作った。このモデルをBCS理論と言う。

クーパー対は、格子振動によって電子対を形成する電子対のことみたいです。もっと分かり易く説明すると、超伝導発現機構

電子が対を組むためには電子間に何らかの引力が働く必要があります。 電子同士は元々クーロン斥力が存在するので、そのままではクーパー対を形成することが出来ません。 超伝導状態においては、電子間のクーロン斥力を有効的に引力にする必要があります。BCS理論においては、この引力の形成機構としてフォノンを取り上げました。 負の電荷を持つ電子が、正の電荷を持つ原子核が並んだ結晶中を運動すると、結晶格子に歪みが起こります(フォノン)。 歪んだ部分においては他の部分に比べて正の電荷に偏っているので、別の電子がその偏った場所に有効的な引力を感じます。 つまり、電子間には、フォノンを媒介として有効的な引力が働いていることになります。 この有効的な引力によってクーパー対が形成され、それが凝縮することによって超伝導状態となるのです。

電子ーフォノン相互作用によってクーパー対が形成されるようで、その電子対が凝縮された状態が超伝導現象のようです。

But if you can change the momentum to asymmetric — leaning toward one direction — then the spin can be symmetric. To do that, you need the help of some exotic (aka weird) physics.

「しかしもしあなたが、一方向へ傾けることで、非対称性へとモーメンタムを変えることができるとしたら、そのスピンは対称性をもつことが可能です。これを達成するためには、何らかの風変わりで奇妙な物理学が必要になります。」

クーパー対の対称性とは、奇周波数超伝導

クーパー対の対称性に関して、多くの教科書には次のようにかかれています。 フェルミ・ディラック統計に従う2電子の対関数(ペア振幅)が、 それを構成する2電子の同時刻での入れ替えに関して反対称でなくてはなりません。 なぜなら、フェルミ・ディラック統計と整合しないといけないからです。

クーパー対対称性には色々な種類があるようです。2009年の記事なので7年前になりますが、その時からあまり進歩がないような気もします。

高温超伝導体の「クーパー対の形」を観察する新手法確立

回転や平行運動、時間を逆回しするなど、何らかの変換に対して、ある性質が不変に保たれることを「対称性」を持つ、という。異なる種類の電子間引力によって生成されるクーパー対は、異なる対称性を持っている。ここではクーパー対の対称性のことを「クーパー対の形」と呼ぶ。

電子を対にくっつけている糊には色々なものが存在していると考えられているので、クーパー対の対称性もその糊の種類によって変わってくるみたいな事を言っています。クーパーペアの説明もついでに載せておきます。

J.バーディーン、L.N.クーパー、J.R.シュリーファーの3人によって提唱された超伝導の理論であるBCS理論によると、超伝導状態では電子が2つずつ対になったほうがエネルギー的に安定になる。最初にこの対の存在を指摘したのがL.N.クーパーであったので、現在ではこの超伝導電子対のことを、クーパー対と呼んでいる。通常、電子の間には電磁気学のクーロンの法則に基づく反発力が働いているので、電子が対になるためには、何らかの「のり」が必要である。もともとのBCS理論では、「のり」として結晶格子の振動を考えていたが、近年、ほかにも「のり」の候補が考えられている。「のり」が強ければ強いほど、高い温度まで超伝導状態が保たれるが、強い「のり」は、格子振動と比べて複雑なことが多く、クーパー対に強い個性が現れることが期待される。

クーパーペアを常温でも繋ぎ留めておく事ができる強力接着剤を発見できれば、夢の室温超電導体が完成するみたいな感じですが、7年経った今でもそれは見つかっていません。電子のさざなみの説明もこの際なので載せておきます。

量子力学によると、電子は粒子であると同時に波としての性質を持ち、固体中の電子は、多くの場合、波となって結晶全体に広がっている。このような電子の波が散乱を受けると、波の干渉によって、散乱源の近くに定常波が形成される。定常波の腹にあたる部分では電子密度が高いのに対し、定常波の節では電子の存在確率がゼロになっている。従って、空間的に電子の存在確率が変調されることになる。電子密度分布を測定すれば、このような変調構造(準粒子干渉パターン) を観察できる。ここでは、このような電子密度分布の変調構造を「電子のさざなみ」と呼んでいる。

電子が波のように広がっているとか、不思議です。

テルル化水銀サンドイッチ

Superconducting materials can imbue non-superconducting materials with their conductive powers simply by being in close proximity. Using this principle, the researchers built a superconducting sandwich, with superconductors on the outside and mercury telluride in the middle. The atoms in mercury telluride are so heavy and the electrons move so quickly, that the rules of relativity start to apply.

「超伝導材料は、単純に傍に置くだけで、それらの導電力はそのままで、非超伝導材料に埋め込むことができます。この原則を使って、研究者は、両サイドに超電導体、真ん中にテルル化水銀を持つ超伝導サンドイッチを作りました。テルル化水銀中の原子は非常に重く電子が素早く動くので、相対性理論の法則が適用し始めます。」

“Because the atoms are so heavy, you have electrons that occupy high-speed orbits,” said Hechen Ren, coauthor of the study and graduate student at SEAS. “When an electron is moving this fast, its electric field turns into a magnetic field which then couples with the spin of the electron. This magnetic field acts on the spin and gives one spin a higher energy than another.”

So, when the Cooper Pairs hit this material, their spin begins to rotate.

「”原子があまりにも重いために、あなたは、高速な軌道を専有する電子を持つことになります。”と研究論文の共著者の大学院生が語りました。”電子がこれだけ早く動くと、電場はその後電子スピンと結合する磁場に変わります。この磁場がスピンに作用し、一つのスピンに他のスピンより高エネルギーを与えます。”、なので、クーパーペアがこの材料に衝突した場合、それらのスピンは回転を始めます。」

The team could measure the spin at various points as the electron waves moved through the material. By using an external magnet, the researchers could tune the total spin of the pairs.

“This discovery opens up new possibilities for storing quantum information. Using the underlying physics behind this discovery provides also new possibilities for exploring the underlying nature of superconductivity in novel quantum materials,”

「チームは、電子波がその材料中を移動する時に、色々な地点でそのスピンを測定することができました。外部磁石を使うことにより、研究者は、ペアの総スピンを調整することが可能でした。”この発見は強い量子情報のための新たな可能性を広げています。また、この発見の背後で基礎を成している物理学を使う事で、新しい量子材料における超伝導の基本的な性質を探求するための新たな可能性を提供しています。”」

超電導体で電子のスピン情報を伝達することを可能にした今回の発見は、スピントロニクス分野の発展や量子コンピュータ開発への大きな前進になったことは間違いないように思えるのですが、ただ、室温超電導が存在しない以上、超電導は実用的とは言えず、今後の常温超電導体の発見が待たれるところでもあります。