IBMが人工ニューロンの開発に成功したようです。人工ニューロンを使えば、ニューラルコンピューティングやコグニティブコンピューティングが可能となり、人間のように振る舞うことができる人工知能の開発も可能になるみたいです。IBMのワトソンが将来的にはるかに賢くなるだけでなく、人間を超越する可能性さえありそうです。
人工ニューロンを使ったコンピュータが先か、量子コンピュータが先か、どちらが先に実用化されるのか楽しみですが、どちらも本格的に運用されるようになるのは、恐らく、数十年先の話で、その間にスーパーコンピュータも相当進化しているので、こちらも興味深いです。
人工ニューロンの開発に成功
IBM scientists imitate the functionality of neurons with a phase-change device
IBM scientists have created randomly spiking neurons using phase-change materials to store and process data. This demonstration marks a significant step forward in the development of energy-efficient, ultra-dense integrated neuromorphic technologies for applications in cognitive computing.
「IBMの科学者は、データを保存して処理する相変化物質を使って、ランダムにスパイクするニューロンを開発しました。この実証は、省エネ、コグニティブコンピューティング分野のアプリケーションのための極高密度集積神経形態学的テクノロジーの開発において、意義ある前進を記録しています。」
ランダムにスパイクするみたいなので、スパイクの緻密なコントロールはできないっぽいです。セルを指定してスパイクさせたりはできないという事です。最も1兆個のセルのシステムで、セルを指定してスパイクさせるとか、有り得ないとも言えます。脳型コンピュータが完成すれば、人間の脳のように、見たものを知覚・認識して、逐一その情報を記憶することができるようになるんでしょうかね。
フェーズチェンジマテリアル
The artificial neurons designed by IBM scientists in Zurich consist of phase-change materials, including germanium antimony telluride, which exhibit two stable states, an amorphous one (without a clearly defined structure) and a crystalline one (with structure). These materials are the basis of re-writable Blu-ray discs. However, the artificial neurons do not store digital information; they are analog, just like the synapses and neurons in our biological brain.
「チューリッヒのIBM科学者によってデザインされた人工神経細胞は、非結晶質(無定形)と結晶質(定形)の2つの安定状態を示す、テルル化ゲルマニウムアンチモンを含んだ相変化物質で構成されています。これらのマテリアルは、書き換え可能なブルーレイディスクの主成分でもあります。しかし、人工脳細胞は、デジタル情報は記憶しません。それらは、我々の生物学的な脳に存在するシナプスやニューロンと同様にアナログです。」
相変化物質の2つのステートで0か1かを記録するのかと思ったら、人工ニューロンはアナログなので、デジタル情報は記憶しないみたいです。情報を0か1のビットで記憶するのではなく、人間の脳のように電気信号で記録する感じなんですかね。
積分発火特性
In the published demonstration, the team applied a series of electrical pulses to the artificial neurons, which resulted in the progressive crystallization of the phase-change material, ultimately causing the neuron to fire. In neuroscience, this function is known as the integrate-and-fire property of biological neurons. This is the foundation for event-based computation and, in principle, is similar to how our brain triggers a response when we touch something hot.
「発表されたデモで、チームは人工脳細胞に、相変化物質の連続的な結晶化をもたらし、最終的にニューロンを発火させる、連続的な電気パルスを印加しました。神経科学では、この機能は、生物学的な神経細胞の積分発火特性として知られています。これが、イベントベースのコンピューテーションの根幹であり、原理上は、我々が何か熱いものを触った時に、我々の脳が反応を誘発するやり方に似ています。」
積分発火モデル、あるいは、積分発火ニューロンモデルのような物があるらしいのですが、良く分からないので、チョロっと調べてみました。ニューロンのモデル
3のモデルは,過去の発火履歴によらず発火が決まるが,実際のニューロンでは一度発火するとその後数ミリ秒は発火しないという特性がある.この積分発火モデルは,この特性を表現できるものであり,発火すると膜電位がある負の値にリセットされ,その後入力の積分によって膜電位が上昇し,それがある閾値を超えるとスパイクを発火する,というものである.
積分発火特性とは、一度発火した後は数ミリ秒発火出来ないニューロンの特性のようです。この特性をモデルにしたのが、積分発火ニューロンモデル、または、積分発火モデルのように呼ばれているようです。このモデルが今回の人工ニューロンにも使われているようです。
超低電力消費
IBM scientists have organized hundreds of artificial neurons into populations and used them to represent fast and complex signals. Moreover, the artificial neurons have been shown to sustain billions of switching cycles, which would correspond to multiple years of operation at an update frequency of 100 Hz. The energy required for each neuron update was less than five picojoule and the average power less than 120 microwatts—for comparison, 60 million microwatts power a 60 watt lightbulb.
「IBMの科学者は、何百もの人工ニューロンを集団へとまとめ上げ、それらを高速で複雑な信号を表すのに使いました。更に、人工脳細胞は、100Hzの更新頻度で、複数年のオペレーションに相当する、何十億回ものスイッチングサイクルに持ち堪える事が示されています。各々のニューロン更新に必要なエネルギーは、5ピコジュール未満で、平均電力は、120マイクロワット未満でした。ちなみに、60ワットの電球の電力が、6000万マイクロワットです。」
人工ニューロンを電気信号として使用し、アナログ式にデータを記録して処理、人工神経細胞は、100Hzのクロックサイクルで、複数年使用可能、かなりの低電力みたいです。仮に1000個の人工ニューロンで200マイクロワットの消費電力だとすれば、1兆個だと単純計算で10億倍の消費電力なので、2000億マイクロワット、200キロワットの消費電力になります。1兆個の人工神経細胞システムが現実的なのかどうかは分かりませんが、人間の脳細胞が1000億から2000億と言われているので、それくらい必要かなと。脳細胞の数は?
脳細胞の数は生まれてから1〜2か月時まで増加し、それ以降増加しません。大脳の神経細胞数は約140億個と推定されていますが、大脳の深い所にある細胞 や小脳の細胞を入れると1000〜2000億と推定されています。出生時の新生児の脳重量は約400g、成人の脳重量が1200〜1400gですから、3倍以上になります。これだけ重くなる理由は、細胞の数が増えるためではなく、脳細胞自身が大きくなり、細胞間のネットワークが増すためです。脳細胞数は生後1〜2か月後は変わりません。
脳の神経細胞が140億個なので、100億個の人工ニューロンなら2キロワットという事になりますが、ちなみにNvidiaの最新GPU、TITAN Xのトランジスタ数が120億個なので、IBMの人工セルもそのぐらいの数は必要になるのではないでしょうか。
人工シナプスと組み合わせる
“Populations of stochastic phase-change neurons, combined with other nanoscale computational elements such as artificial synapses, could be a key enabler for the creation of a new generation of extremely dense neuromorphic computing systems,”
「人工シナプスなど、他のナノスケールのコンピュータ素子とうまく組み合わせたストキャスティック・フェーズチェンジ・ニューロン(確率的相変化神経細胞)の集団は、極めて密度の高い神経形態学的コンピューティングシステムの新しい世代の創造にとって、実現への鍵になるのではないでしょうか。」
確率的相変化ニューロン、または、確率相変化ニューロンとか何の事かよく分かりませんが、たぶん知らなくてもいいと思います。
人工シナプスについては前回も書きましたが、人工ニューロン、人工シナプスの組み合わせは最強タッグかもしれません。あるいは、両者には違いがないのかもしれませんが、何れにしても、脳型コンピュータが人工知能分野に与える影響は非常に大きいので、シンギュラリティ達成のためにも、一刻も早い実用化が待ち望まれています。