ダイアモンドベースの光源が、量子コンピュータの将来を変える可能性があるようです。モスクワ物理工科大学、ジーゲン大学、LENSの研究者達が、ダイヤモンド結晶内の人工欠陥が、極めて明るく非常に効率的な電動の量子エミッタに変えられる可能性がある事を発見したそうです。今回の彼等の研究は、 New Journal of Physics誌に掲載されています。
ダイヤモンドベースの素子(窒素空孔)の量子コンピュータへの応用は前回も書きましたが、今回の研究は、それのさらなる発展形なのかもしれません。
単一光子源
Diamond-based light sources will lay a foundation for quantum communications of the future
efficient electrically-driven single-photon sources — devices that emit single photons when an electrical current is applied. In other words, using such devices, one can generate a photon “on demand” by simply applying a small voltage across the devices, the probability of an output of zero photons is vanishingly low and generation of two or more photons simultaneously is fundamentally impossible.
「高効率な電動の単一光子光源、電圧が印加されるとシングル・フォトン(1個の光子)を放出するデバイス。換言すれば、そのようなデバイスを使うことは、単純にデバイスの至るところに小電圧を印加する事で、1個も光子を出力しない可能性が限りなく0に近く、2個以上の光子を同時に発生させる事は基本的に不可能になり、要求に応じて1個のフォトンを発生させる事を可能にします。」
とにかくゼロでも2個以上でもダメなようで、必ず1個のフォトンをオンデマンドで放出する必要があるみたいです。この事が今までは常温では不可能だったらしく、それが今回可能になったので大ニュースになっています。画期的な新発見だと言えるのではないでしょうか。
量子ドットが、単一光子光源の期待の星だったのですが、極低温でないと使えないという致命的な欠点を抱えていました。液体窒素や液体ヘリウムによる冷却が必要で、とても汎用的と言えるような代物ではなかったようです。窒素空孔によるシングルフォトン光源も存在していたようですが、外部高出力レーザーによる光学的励起によってのみ可能だったので、実験室ぐらいでしか使い物にならず実用性に著しく欠けていたみたいです。電気的励起も実験されていましたが、良い結果は得られておらず、効率性においては、量子ドットの足元にも及ぼなかったという事です。それが今回の研究で、室温で電動による高効率な単一光子の出力に成功したという事ですから、素晴らしいの一言に尽きます。
量子通信
Building quantum computers is still a prospect of the future, but secure communication lines based on quantum cryptography are already starting to be used. However, today they do not use true single-photon sources; instead, they rely on what are known as attenuated lasers. This means that not only is there a high probability of sending zero photons into a channel, which greatly reduces the speed of data transfer, but there is also a high probability of sending two, three, four, or more light quanta simultaneously. One could intercept these “extra” photons and neither the sender nor the recipient would know about it. This makes the communication channel vulnerable to eavesdropping and quantum cryptography loses its main advantage – fundamental security against all types of attacks.
「量子コンピュータの製造はまだまだ先の話ですが、量子暗号に基づく安全な通信回線は既に使われ始めています。しかし、現在それらは本当の単一光子源を使っておらず、代わりに、減衰レーザーとして知られている物に頼っています。これは、高い確率で、データー転送速度を著しく損なう、0光子を通信路に送信しているだけではなく、同時に多くの光量子(光子)を送信している高い可能性が存在します。誰かがこの余分な光子を傍受することも考えられ、送信者も受信者もその事にたぶん気付かないでしょう。これが、コミュニケーションチャネル(通信経路)を盗聴に脆弱にしてしまい、量子暗号はその一番のメリットである、あらゆるタイプの攻撃に対する安全性を失ってしまいます。」
量子コンピュータへの応用以外にも、量子コミュニケーションにも応用可能みたいです。送信する光子の数が常に1個でないと、通信速度が落ちるだけでなく、情報喪失や情報を第三者に傍受される危険性があるようです。今回の単一光子源はそういった意味でも画期的です。
量子コンピュータ
For quantum computing it is also essential to have the ability to manipulate individual photons. The quantum of light can be used to represent a qubit – the fundamental unit of quantum information processing, – which is a superposition of two or more quantum states. For example, a qubit can be encoded in the polarization of a single photon. The advantage of the optical quantum computing paradigm is that one can natively combine quantum computations with quantum communication and design high-performance, large and scalable quantum supercomputers, which is not possible to do using other physical systems, such as superconducting circuits or trapped ions.
「量子コンピュータにとっても、個々の光子を巧みにコントロールする能力を有することは絶対不可欠です。光量子は、2つ以上の量子状態のスーパーポジション(重ね合わせ)である量子情報処理の基本単位である、キュービット(量子ビット)を表すのに使用する事も可能です。例えば、キュービットは単一光子の偏光に符号化され得ます。光学的量子コンピュータのパラダイムの強みは、人がそのまま(エミュや最適化なしで)量子コンピュータと量子通信を組み合わせる事ができ、高性能かつ大規模で拡張可能な量子スーパーコンピュータを設計できる事で、このような事は、超伝導回路、または、補足イオンなどの他の物理的システムを使っていては達成不可能です。」
既存の方式では到底成し遂げられない、量子コンピュータの拡張可能な大規模化が、今回のダイヤモンド単一光子源を使えば、達成可能になるそうです。室温で量子コンピュータが使えるようになるというのが一番の売りではないでしょうか。
色中心、カラーセンター
今まで、色中心から高輝度の単一光子が放射されなかった理由を、研究が明かしています。
But the most important result of the study is that the researchers found out why high-intensity single-photon emission from colour centers was not observed under electrical pumping. The reason for this was the technologically complex process of doping of diamond by phosphorus, which cannot provide sufficiently high density of conduction electrons in diamond.
「しかし、今回の研究の最も重要な成果は、研究者が、電気ポンピング(電気励起)の下では、色中心からの高強度(高輝度)の単一光子の放射が観察されなかった理由を発見した事です。この理由は、ダイヤモンド中に十分な高密度の伝導電子を提供できない、リンによるダイヤモンドのドーピングの技術的に複雑なプロセスにありました。」
色中心とは、点欠陥の事のようです。カラーセンター
ダイヤモンドなどの結晶において、規則的な結晶格子中であるべき原子がない状態、不純物原子で置換された状態、格子位置にあるべき原子や不純物原子が格子間位置を占めた状態などを点欠陥といいます。この点欠陥は本来なら透明な結晶を着色させる要因になることがあるのでカラーセンター(色中心)と呼ばれます。
ダイヤモンドのドーピングの工程に問題があったために、今まで、電気励起による高輝度単一光子の観測に失敗していたようです。ドーピング技術の向上で高輝度単一光子の放射が可能になったということみたいです。さらなる技術革新でより高輝度の単一光子の放射が可能になるらしいです。この技術の今後の展開がかなり楽しみでもあります。