安全性の罠、安全資産不足が世界経済を停滞させている?

2008年以降、世界経済が停滞しているのは、リーマン・ショックを引き金に発生した世界大不況から立ち直るために、先進国が低金利政策に走った事が原因みたいです。アメリカ国債も低金利で投資妙味が薄れています。本当の安全資産と言えるのは米国債ぐらいでなので、米国債の金利が低過ぎるのも弊害になっているようです。

safety trap(安全性の罠)

The safety trap

Unless you’ve been following the subject closely, you may not have heard of one of the biggest barriers slowing the revival of global economic growth over the last decade. That would be the “safety trap,” a problem arising from a lack of low-risk investments around the world.

「密接にその話題に付いて行かない限り、過去10年にわたり、世界経済の成長の回復を減速している最大の障害の1つを聞いたことがないかもしれません。それは、世界各国の低リスクの投資の不足から起因している問題である、”安全性の罠”というやつです。」

日本経済はliquidity trap(流動性のわな)に陥っていると昔はよく言われたものですが、結局そこから抜け出す事なしに、失われた20数年に至っています。80年代は定期預金金利が7~8%だったので、今は0.1~0.2%程度なので、これが日本経済に与えているダメージはかなり深刻で、ギャンブラーが得をして、堅実な人間が馬鹿を見る、おかしな世の中になってしまっています。これでは人間が堕落してダメになるのも当然です。

流動性の罠から安全性のわなに移行したとも言えるのかもしれませんが、日本の金融機関が直面しているがまさにこの問題で、ほとんどの日本国債がマイナス金利になってしまっているので、投資先選びに苦心しています。90年代に入ってのバブル崩壊による不良資産問題で、企業存続の危機に陥ってしまった金融機関が多かっただけに、リスク資産への投資は敬遠されています。自分の金ではないのだから当たり前のことで、他人から預かっている大事なお金を危険な投資先に投資するような、不誠実な人間を信用するようなバカはいないでしょう。

And yet, the ensuing flight to safe assets, such as U.S. debt, has come with its own cost. The increased demand for these safer investments keeps interest rates at low levels, to the point where central bankers cannot spur additional economic output by further lowering those rates. This is the “trap” part of the safety trap.

「それにもかかわらず、アメリカの負債などの安全資産への結果的な逃避は、コストがないわけではありません。これらより安全な投資に対する増大する需要は、中央銀行が政策金利を追加的に下げることで、さらなる経済生産を刺激することができなくなる程度まで、金利を低くし続けてしまいます。これが安全性のワナの罠の一部です。」

日本国債が低金利になり過ぎて、日本の機関投資家達が、より高い金利を求めて海外債権を買い漁れば、結果としてその債権の金利も下がり続けてしまうというわけです。デフォルトの危険性のある債権だとべらぼうに高金利ですが、アルゼンチンやロシアのデフォルトで煮え湯を飲まされている投資家は、より安全な資産を求めるしかありません。安物買いの銭失いは絶対に許されないので、どうしても安全資産に逃避するしかなくってしまいます。

ゼロ金利制約の罠に陥る

“Net safe asset producers [such as the U.S.] export these assets to net safe-asset absorbers [foreign investors buying debt] until interest rates are equalized across countries,”

「ネット安全資産生産国(アメリカ等の)は、これらの資産を、国家間の金利が均一化されるまで、ネット安全資産吸収者(負債を購入する海外投資家)に輸出します。」

ドル円レートも基本的に日米金利差によって決まる部分があるので、米国債金利が低下すれば円高になるので、日銀は円安にするために、マイナス金利を深掘りするしかなくなっているのですが、金融機関の反発が強いのでそれができないでいます。円安政策を推進するには、外国為替市場に対する直接介入しかありません。しかし、市場介入は猛烈な国際批判を招くことは必至で、特にアメリカは選挙の年でもあるので、このタイミングでの為替市場介入は絶対に避けなければなりません。トランプ氏に日本叩きの材料を与えてしまうだけです。

And that creates a further problem. Central banks lower interest rates to stimulate growth (by making borrowing cheaper). But when interest rates get low enough they hit what economists call the Zero Lower Bound (ZLB), which puts an end to further interest-rate reductions. Output weakens, demand shrinks, and growth sputters. This has happened in many major countries in recent years.

「そしてその事が、さらなる問題を作り出してしまいます。中央銀行は、成長を促進するために金利を下げます(借り入れを安価にすることで)。しかし、金利が十分低いと、それらはエコノミストたちが言うところの、追加的な利下げに終止符を打つ、ゼロ金利制約にぶち当たります。生産活動は衰退し、需要は縮小し、成長は止まります。これが近年多くの主要な先進国で起こっている事なのです。」

低金利な世界では、借金が美徳になり、貯蓄は罰せられます。貯蓄なんかしてないで、借金して面白おかしく遊ぼうぜな世界です。このままいくと、投機が美徳で、労働が罰せられる世の中が誕生する事になりかねません。労働なんてアホがする事はやめて、投機で儲けようぜのような世界です。ネオニートな個人投機家がたまに大々的にニュースで取り上げられますが、彼等はある意味特殊で、誰もが成功するわけではないので、真似をしない方が身のためです。

とは言っても投機と投資は全くの別物なので、自分がこの企業は将来性があると思えば、その企業に投資するのが一番かもしれません。配当も出ますし、銀行やタンスに寝かせておくよりははるかに安全かもしれませんし、絶対に潰れない、配当もゼロになった事がない、有利子負債の少ない堅実な企業を選べばいいのではないでしょうか。堅実な企業が投資家を惹き付けるのは当然だし、そういう企業を育てる意味でも、投資は推奨されるべきなのかもしれません。

安全資産が足りない

安全資産が少な過ぎるので、その資産に投資家が殺到することで、金利が下がり続けるか、下げ止まりしてしまい、結果的に経済活動を阻害してしまっています。この解決策が政府の財政出動だと、一部で狂信的に叫ばれ続けていますが、同じことが30年代の大恐慌時代のアメリカでも行われましたが、結局は大失敗に終わっています。財政出動が行き過ぎれば、国の将来性に疑問符がつき、その国の国民の財布の紐が堅くなり、さらに一旦政府の歳出が落ち込めば、さらに財布の紐が固くなるという負のスパイラルに陥ってしまいます。日本がまさにその状態にあります。人間は額に汗して働き堅実に生きる、この基本が失われれば、国家はもはや破綻すべき運命にあるのかもしれません。

“Producing output from physical capital is a lot easier than producing safe assets from it,”

「物的資本から生産物を作り出すことは、それから安全資産を作り出すよりも、はるかに簡単な行為なのです。」

要は皆が額に汗して働けばいいということです。投資(投機)の見返りだけで楽して生きようという人間が無限に増殖し続ければ、それが経済活動を阻害し、やがて国家は破綻します。誰も低賃金のきつい労働をしなくなってしまうからです。大量移民でその問題を解決しようと考えている政治家もいますが、移民もやがてはそういう仕事をしなくなります。その度に新たな移民を連れてくる必要が生じ、それが今の欧米の移民・難民問題の原因になっています。

今の日本は深刻な人手不足だと言われています。ブラックな人間が多過ぎて、真面目でおとなしい人間が働ける環境ではなくなってしまっているのが原因なのですが、ブラックな人間の徹底的な駆逐以外には、ブラック企業をまともな企業に変えることはできません。誰もが働きやすい環境であれば、多くの人が働くようになり、人手不足は解消され、それにより経済活動が活発化し、経済は成長していきます。

So, for instance, countries need stable systems of issuing debt and good track records to produce safe assets and attract investors.

「なので、例えば、国は、安全資産を生み出して投資家を惹き付けるには、起債のための安定したシステムと優良な実績が必要になります。」

国が安価に借金を積み上げ続けるためには、国際的な信用を勝ち取る必要があります。それはある意味至難の業で、日本は国際信用力があるというよりは、対外純資産が多く、世界最大の債権国家である事が、国の信用力につながっています。もちろん、日本製品の絶大な信用力のおかげで、日本がそれだけの富を築けたので、日本の国際信用力が高いことに変わりは無いとも言えます。日本人が額に汗して良品を作り続けた結果でもあります。

安全性の罠は、安全志向が国の活力を弱めているとも言えます。安定志向というか、リスクをとってまで、成功したくないとか、安全安定が一番という思考が、先進国や新興国の勢いを削いでしまっているのは明白で、ここを何とかしないと、世界経済に明るい未来はないのかもしれません。企業が人に投資して、消費者も企業に投資する、これが経済の基本であり、これなしには経済は成り立ちません。もう一度原点に立ち返る必要がありそうです。