ロシア軍が弱いという人は、先ず、ロシアの国力を全く理解できていません。ロシアという国が、GDPが1.7兆ドルでブラジル程度、人口は1億4600万人で日本より2000万人多い程度の国だということを知っておく必要があります。一方のNATOはGDPが43.44兆ドルで人口は9億4600万人です。国力ではロシアとNATOの間には蟻と象ほどの差があります。ロシアが恐れられているのは核戦力であって通常戦力はこんな程度なのです。NATOの全面バックアップを受けているウクライナ軍がロシア軍を圧倒するのは当然の帰結です。問題は、ロシアがウクライナに勝つには最終的にロシアを恐ロシアたらしめている核戦力に頼らざるを得なくなることです。そのことが分かっているからこそこの戦争は早く終結させる必要があるのです。
キエフ包囲は何故失敗したのか?
ウクライナ北部からキエフ方面に伸びる全長64kmに渡る镸いコンボイ車列はdeath convoy(死のコンボイ)としてキエフ市民から恐れられていましたが、実際にはロシア軍にとっての死のコンボイになってしまいました。当時アメリカのメディアでは湾岸戦争時のhighway of deathの話しが盛んに持ち出されていましたが、あるコメンテーターがNATO軍がA-10で攻撃できないのかと聞いた時に、専門家はロシアのS-400対空ミサイルによって撃墜されるのが落ちと言っていました。ところが、ウクライナのドローン編隊はロシアの対空ミサイル網をかいくぐってロシア軍の死のコンボイに波状攻撃を加えていきます。上空からはドローン、正面・側面・後方からはジャベリンミサイル、コンボイを支援する攻撃ヘリにはスティンガーと、全方向からの攻撃によりロシアのコンボイ軍団は大打撃を被ります。さらに、燃料補給車輌や武器・弾薬・食料を積んだ輸送トラックはウクライナ軍の格好の餌食になり、結果として前線のロシア兵に燃料・食料・弾薬不足による士気の低下を招いて脱走や投降する兵士が続出、ロシア軍はキエフ周辺からの完全撤退と作戦変更を余儀なくされます。
ドンバス挟撃作戦
仮にドンバス方面での挟撃作戦が失敗して、ウクライナ東部軍の包囲殲滅が叶わなかった場合、ロシアが通常戦力でウクライナをを屈服させるのは不可能になります。もはやロシアに大攻勢を行うだけの兵力は残っていないし、当然始まるウクライナ軍の反抗でロシア軍がウクライナ領内から徐々に駆逐されていくのは必至です。今回のドンバス挟撃作戦は、ドイツ軍のクルスク挟撃作戦と同じように、ロシア軍の命運を決定付けることになります。ただ、ロシア軍にドンバスを挟撃するだけの戦力が残っていないと指摘する専門家もいます、兵力不足で包囲網を敷けば、薄い包囲網の側面を攻撃されて戦線に穴が開き、今度は逆にロシア軍が包囲されてしまうので危険な賭けであることは確かです。しかしながら、No risk, No gainと言われるように、ロシアとしては戦況を打開するためにも最後の賭けに出るしかありません。この作戦が成功すれば、ロシア軍は次のオデッサ作戦に移行できるし、ウクライナとの間の和平交渉も有利に進めることができるようになります。プーチン氏はウクライナ東部とクリミアの割譲を要求しているので、NATOがゼレンスキー大統領に圧力をかけてこの条件を呑ませるしかありません。
参考サイト
Ukrainian Amateur Drone Users Destroyed Russian Convoy In Series Of Deadly Ambushes
The Donbass caught in a pincer movement, the new Russian strategy
NATO – North Atlantic Treaty Organization