高橋留美子先生の最高傑作と言えば、うる星やつらかめぞん一刻と言われていますが、個人的にはめぞん一刻だと思っています。保育士(保父)の不祥事のニュースを見る度に、五代くんのことを思い出す人も多いかと思いますが、1・2の三四郎の東三四郎を思い出す人の方が多いかもしれません。五代や三四郎に憧れて保父になった人もいるはずです。私も三四郎に憧れてレスラーを目指した時期もありましたが、レスリング部のある高校に行けなかったので、敢え無く挫折した後に、タッチに影響されて野球部に入るも敢え無く挫折した経験があります。
一刻館というボロアパート
一刻館を見た時、船橋市海神にあったボロアパートにそっくりでビビった記憶があります。そのオンボロアパートは、海神駅から船橋方面へ向かう、子供の店PちゃんとQちゃんという駄菓子屋の先にあったのですが、確か矢作荘という名前だったと記憶していますが、あまり定かではありません。急坂の途中にあるところまでそっくりで、当時はここがモデルだろうと思ったものでしたが、実際には、めぞん一刻の舞台は、連載当時に高橋留美子先生が住まわれていた東久留米と練馬だと言われているので、船橋とか全然有り得ないんですけどね。
海神というと、海神中という、略して海中と言われていた寄生虫のような名前の中学があったのですが(近くに蟯虫と呼ばれる中学もありました)、その中学校には飛ノ台遺跡という縄文時代の遺跡があって、洞穴とかがあったと伝えられています。あの周辺は田んぼと畑だらけで、近くの海神山には野うさぎや狸なんかもいたみたいです。話がすっかり脱線してしまいましたが、一刻館というボロアパートに、音無響子という美人管理人が赴任してきたことは、主人公の五代裕作にとっては奇跡としか言えません。実際には、あんな美味しい展開は絶対に有り得ません。
めぞん一刻の魅力
めぞん一刻の魅力は、一言で言えば、バツイチ子無し美人管理人と、薄幸フツメン貧困浪人生の絶妙の組み合わせにあったと思われます。悲惨なアパート生活に耐えかねてアパートを出る決意をした五代が、管理人さんに出会った途端、一瞬にして決意を翻し、それから延々とグダグダの2人の疑似恋愛ごっこが始まり、その超グダグダ感と、主人公の有り得ないほどの運の無さ、優柔不断っぷりと、管理さんの有り得ないぐらいの鈍感・天然っぷりが、単調になり勝ちなこの手のラブコメ漫画に魅力を持たせています。
管理人さんが、三鷹と五代を天秤に掛けている一方で、五代は、こずえちゃんをキープしていたとも言われていますが、実際は、優柔不断かつ優し過ぎて関係を断ち切れなかっただけです。五代くんの無垢の純真さと、バツイチ響子さんのしたたかさのコントラストが、見る人(少年読者)の心を惹き付けたのかもしれません。男心を手玉に取る嫉妬深い魔性の女と、その狡猾な女郎蜘蛛の張り巡らした蜘蛛の巣から抜け出せない、幸薄い哀れな主人公(浪人さん)が繰り広げる恋愛人間模様が、読者心をくすぐったことだけは確かでしょう。まさに奇跡の純愛漫画であると言えます。
五代裕作の生き方
浪人して三流大学(Fラン大)の教育学部に入学し、管理人の義父のコネで押し込んでもらった教育実習先(響子さんの母校)で知り合った八神とかいう小娘に好意を持たれ、そのコネで一流企業に入社できると思ったのも束の間、不運の連鎖で悲惨な人生に陥ってしまうのですが、大学時代の友人から紹介されたバイトのおかげで天職を見付け、その天職である保父を目指して一念発起、ライバル三鷹との管理人さん争奪戦にも勝利し、見事に思いを全うします。
大学を卒業してからの主人公の生き方は、平凡に生きていくことの難しさを。全ての読者に教えてくれています。連載当時のビッグコミックスピリッツを読んでいた頃は、主人公みたいにならないように勉強しようと思ったものですが、結局は、パソコン(ゲーム)やファミコン、漫画、アニメ、部活に遊びで忙しくて、勉強どころではありませんでした。気が付けば、主人公がいかに幸運だったのかを痛感させられています。紆余曲折はあっても、天職の保父になって無事に就職先も決まり、最終的に最愛の人と結ばれ子供を儲けるという幸せっぷりです。主人公みたいな悲惨な人生だけは絶対に送らないと心に誓っていましたが、あのような幸せな人生を送ることが如何に難しいことであるのかということを痛感させられました。