”alternative facts、alt-facts(もう1つの事実)やalternative-truth、alt-truth(もう1つの真実)”は、昨今、政治的な意味合いでニュースになってきていますが、精神科医達は、既にそのコンセプトを熟知しています。というのも、ほぼ毎日のように患者達によって発言されているさまざまな形態のもう一つの事実を耳にしているからです。全ての人間が、ほぼ毎日のように日々の生活の中で、実際の現実なのか思い込みの現実なのかを区別する必要があり、ほとんどの人が全くの妄想と見なす主張や意見にどう対処すべきかが課題になっています。
不真実が常に嘘とは限らない
‘Alternative facts’: A Psychiatrist’s Guide to Distorted Reality
先ず、我々は、倫理学者と哲学者によってよく強調される、lie(嘘)とfalsehood(誤り)の違いを区別する必要があります。真実だと認識している事を、私利私欲のために意図的に不正確に伝える人は嘘付きです。それとは対照的に、人を欺く意図は全くなしに誤った主張をする人は嘘付きではありません。その人は、ただ単に、真実に気付いていない可能性があるし、あるいは、利用可能な決定的な論拠を信じないだけかもしれません。嘘つきではなく誤った事を言っているということになります。
誤った発言をする人々の一部は、現実と非現実、または、真実とフィクションの区別がつかないように見え、その上、自分達の世界観が完全に正しいと心から確信していて、この事は、精神病理学に対する興味のきっかけを我々に与えてくれています。
臨床精神医学において、我々は、多くの人々が、異様、大げさ、現実逃避と考える幅広い範囲にわたる考えを持った患者達を目にしています。臨床医の仕事は、先ず、患者の視点に立って親身になって話を聞いてあげ、人々の文化的、民族的、宗教的な背景を注意深く考慮に入れながら、こういった信念を理解しようと試みることから始まります。
医師達は、第一印象で有り得ない勘違いをしでかすことが時としてあります。かつて、私の同僚は、FBIにストーカーされて悩まされていると言い張っていることから、措置入院させられていたひどい激越状態にあった患者について語ったことがあります。入院後数日経ち、FBI捜査員達がその患者を逮捕するために病棟にやって来ました。古い冗談にもあるように、人がパラノイド(被害妄想狂)だからといって、必ずしもそうだとは限らないという事です。
信念が間違っている時
We can think of distortions of reality as falling along a continuum, ranging from mild to severe, based on how rigidly the belief is held and how impervious it is to factual information. On the milder end, we have what psychiatrists call over-valued ideas. These are very strongly held convictions that are at odds with what most people in the person’s culture believe, but which are not bizarre, incomprehensible or patently impossible. A passionately held belief that vaccinations cause autism might qualify as an over-valued idea: it’s not scientifically correct, but it’s not utterly beyond the realm of possibility.
私達は、現実の歪曲を、信念に対する固執度や現実離れの度合いに基いた、中程度から重度に至る連続体に位置づけて考えることができます。その連続体の中程度の終端上では、精神科医達が支配観念と呼んでいるものが位置しています。これらは、ほとんどの人達が、民族的文化のスペクトル内で信じている事とは相反する固く信じられている信念ですが、奇妙でも理解不能でも明白に有り得ないことではありません。ワクチンが自閉症を引き起こすという熱烈に支持されている信念は、支配観念と言えるかもしれません。それは今の所科学的に誤りであると信じられてはいますが、可能な範囲を完全に逸脱しているというわけでもありません。
ワクチンが自閉症の原因になっているという仮説にしても、地球の温暖化(気候変動)にしても、一部の人々にはそれらが真実であったとしても、その他の人間には虚偽に聞こえます。仮説は別として、人為的温暖化などの科学的事実というものは絶対ではなく、科学のさらなる進歩と共に変化していくものなので、今の科学では科学的事実であったとしても、10年後には非科学的になっている可能性もあります。
On the severe end of the continuum are delusions. These are strongly held, completely inflexible beliefs that are not altered at all by factual information, and which are clearly false or impossible. Importantly, delusions are not explained by the person’s culture, religious beliefs or ethnicity. A patient who inflexibly believes that Vladimir Putin has personally implanted an electrode in his brain in order to control his thoughts would qualify as delusional. When the patient expresses this belief, he or she is not lying or trying to deceive the listener. It is a sincerely held belief, but still a falsehood.
その連続スペクトルの重度終端に位置しているのが妄想です。これらは事実によって全く変えることができない、完全に不動の強力な信念で、明らかに誤りで有り得ない事です。重要なのは、妄想は、人の文化や信仰や民族性では説明がつかないことです。ウラジミール・プーチン大統領が、自分の考えをコントロールするために、脳内に電極を埋め込んだと頑固に信じ切っている患者は、妄想症と見なせるかもしれません。その患者が、この信念を口外する時、嘘を付くわけでも聞き手を騙すわけでもありません。誤りを信じ切っているだけです。
多種多様な誤った信念が、多種多様な神経精神病学障害を持つ人々によって表明されてはいますが、完全に正常な人達によっても発せられています。正常な誤った信念の範囲内に位置しているのが、ほとんどの人が頻繁に経験する、いわゆる誤った記憶です。例えば、電気代を払ったと確実に思い込んでいたとしても、実際には、払ってはいなかったというような事です。
As social scientist Julia Shaw observes, false memories “have the same properties as any other memories, and are indistinguishable from memories of events that actually happened.” So when you insist to your spouse, “Of course I paid that electric bill!” you’re not lying – you are merely deceived by your own brain.
社会学者のジュリア・ショー氏は、偽りの記憶が、他の記憶と全く同じ性質を持っていて実際に起こった出来事の記憶と区別できないことを観測しています。”なので、配偶者に、もちろん電気代は払ったと固執する時、人はただ単に自身の脳に欺かれているだけなのです。”
A much more serious type of false memory involves a process called confabulation: the spontaneous production of false memories, often of a very detailed nature. Some confabulated memories are mundane; others, quite bizarre. For example, the person may insist – and sincerely believe – that he had eggs Benedict at the Ritz for breakfast, even though this clearly wasn’t the case. Or, the person may insist she was abducted by terrorists and present a fairly elaborate account of the (fictional) ordeal. Confabulation is usually seen in the context of severe brain damage, such as may follow a stroke or the rupture of a blood vessel in the brain.
もっと深刻な偽りの記憶は、作話症と呼ばれるプロセスが絡んでいて、それは、無意識に偽りの記憶を作り出すことで、かなり詳細な作り話であるケースが多いです。作り出された記憶の一部が日常的である一方で、その他の部分は非常に非日常的なものになっています。例えば、ある人は、ホテルリッツでエッグベネディクトを朝食に摂ったと、たとえ、この事が事実に反していたとしても、心から信じ切って強く主張するかもしれません。あるいは、ある人は、自分がテロリストに誘拐されたと主張し、かなり詳細に練り上げられた苦労話を口にするかもしれません。作話症は、脳卒中や脳内血管破裂の後に続く深刻な脳傷害という状況においてよく見られます。
デフォで嘘付き
Finally, there is falsification that many people would call pathological lying, and which goes by the extravagant scientific name of pseudologia fantastica (PF). Writing in the Psychiatric Annals, Drs. Rama Rao Gogeneni and Thomas Newmark list the following features of PF:
最後に、科学的に虚言癖(空想癖)という大袈裟な名前で通っている、多くの人々が病的虚言と呼んでいる虚偽が存在します。トーマス・ニューマーク博士等によってPsychiatric Annalsの中で、PFの特徴が以下のように説明されています。
- 自身の行動が招いた結果を有耶無耶にするための自己防衛的試みとしての際立った虚言癖で、こういった人は自分の空想的な作り話によってハイな気分になったりもします。
- そういった嘘は部分的に真実が含まれている可能性があるにもかかわらず、非常に幻惑的であるか、もしくは幻想的です。そういった嘘は多くの人を引き付ける傾向にあります。
- そのような嘘は、人に脚光を浴びさせる傾向にあり、病的ナルシシズムのような潜在的性格特性の1つの表れである可能性があるのですが、しかし、虚言空想癖における嘘は、通常、自己陶酔性を持つ人々の真実味のある話の範囲を逸脱しています。
Although the precise cause or causes of PF are not known, some data suggest abnormalities in the white matter of the brain – bundles of nerve fibers surrounded by an insulating sheath called myelin. On the other hand, the psychoanalyst Helene Deutsch argued that PF stems from psychological factors, such as the need to enhance one’s self-esteem, secure the admiration of others or to portray oneself as either a hero or a victim.
PF(pseudologia fantastica)の正確な原因は分かってはいませんが、いくつかのデータがミエリンと呼ばれる絶縁被膜によって取り囲まれている神経線維の束である脳の白質における異常性を示唆しています。その一方で、精神分析医ヘレン・ドイチュ氏は、PFが人の自尊心を高める欲求や他人の称賛確保、自分自身をヒーローや悲劇のヒロインとして描く等の心理学的な要因により発症している可能性があることを主張しています。
誰も真実に関心はない
Of course, all of this presumes something like a consensus on what constitutes “reality” and “facts” and that most people have an interest in establishing the truth. But this presumption is looking increasingly doubtful, in the midst of what has come to be known as the “post-truth era.” Charles Lewis, the founder of the Center for Public Integrity, described ours as a period in which “up is down and down is up and everything is in question and nothing is real.”
もちろん、この事の全ては、現実や事実を成している物に対する世論の類や、ほとんどの人々が、真実をはっきりさせる事に利害関係を有している事を想定しています。しかし、この想定の根拠が、今日ポスト真実時代として知られるようになったものの真っ只中で、ますます疑わしくなってきているように見えます。センター・フォー・パブリック・インテグリティーの創設者チャールズ・ルイス氏は、その事を、”上が下・下が上で全てが疑わしく、真実なんて存在しない”時代と表現しています。
Even more worrisome, the general public seems to have an appetite for falsehood. As writer Adam Kirsch recently argued, “more and more, people seem to want to be lied to.” The lie, Kirsch argues, is seductive: “It allows the liar and his audience to cooperate in changing the nature of reality itself, in a way that can appear almost magical.”
さらに心配なのは、一般世論が虚偽に対して食欲が旺盛のように見えることです。作家のアダム・カーシュ氏が最近主張しているように、ますます多くの人達がだまされたいと思っているように見受けられます。カーシュ氏は、その嘘は非常に誘惑的で、”それが、ほとんど魔法のように見えるやり方で真実そのものの性質を嘘付きとその聴衆達が協力して変えてしまうことを可能にしている。”と主張しています。
And when this magical transformation of reality occurs, whether in a political or scientific context, it becomes very difficult to reverse. As the writer Jonathan Swift put it, “Falsehood flies, and the Truth comes limping after it.”
そして、この魔法のような真実の変換が起きる時、それが政治的背景においてであろうと社会的背景においてであろうと、反転させることが非常に困難であるということです。作家のジョナサン・スウィフトが表現しているように、”嘘はすぐに広まり、真実はその後ろで立ち往生しています。”
Psychiatrists are not in a position to comment on the mental health of public figures they have not personally evaluated or on the nature of falsehoods sometimes voiced by our political leaders. Indeed, the “Goldwater Rule” prohibits us from doing so. Nevertheless, psychiatrists are keenly aware of the all-too-human need to avoid or distort unpleasant truths. Many would likely nod in agreement with an observation often attributed to the psychoanalyst Carl Jung: “People cannot stand too much reality.”
精神科医達は、自分達が個人的に診断していない著名人達のメンタルヘルス(精神的な健康)や、指導的立場の政治家達によって発せられる虚偽の性質に関するコメントをするポジションにはいません。実際には、ゴールドウォーター・ルールが、精神科医達がそうすることを禁じています。それにもかかわらず、精神科医達は、好ましくない真実を避けたり歪曲したりするあまりにも人間的な欲求を痛感させられていて、彼等の多くは、精神分析医カール・ユング博士によるとされている、”人々は過剰な現実には耐えられない。”という所見に同意してうなずくはずです。
リベラルフェイクニュースメディアの罪
例えば、トランプ大統領が。政治的なスペクトラムで嘘と真実は完全に真逆になります。例えば、大多数のリベラルと一部の保守派は不法移民がアメリカ経済に貢献しているという嘘が真実だと信じていますが、ほとんどの保守派はこれが嘘だということを知っています。つまり、人によって真実が異なるということになります。嘘と真実の境界が非常に曖昧で、統計にもばらつきがあり、どの統計を信じるかで事情は違ってきます。民主党寄りのシンクタンクは当然、不法移民に有利になるように統計結果を操作する一方で、保守系シンクタンクは、真実の統計を伝える傾向に有ります。世論調査会社にしても、それがそのまま当てはまります。
民主党寄り世論調査機関とリベラルメディアは、大部分のアメリカ人は不法移民に同情的だという調査結果を垂れ流していました。それを真に受けた政治評論家達は、反不法移民を声高に訴えているトランプ氏はラティノ票を取れずに大敗すると断言していました。しかしながら、トランプ氏は選挙に勝ってしまったわけですから、こういった調査がリベラルメディアによる世論操作だったことを証明してしまっています。トランプ大統領がフェイクニュースメディアと言っているリベラルメディアは、大衆を欺く(洗脳する)事が至上命題になっています。リベラルは自分の政治信条にとって耳障りの良い言葉だけを聞きたがっているので、それが例え真実でなかったとしても全く問題ない時代になってしまっています。